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運命の向こう側
1話
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らく忙しかったからなぁ……」
「教員免許を取らなければいけませんでしたからね。大学の単位取得が大変でした。その点は、リンに感謝しなければ」

 麻帆良に赴任する時、どの職種かを話し合い、最終的に教師に決まった。これは、一番ごまかしが効いて、目立たないためだ。ただ住んでいるだけというのも不可能ではないし、前任者はそうしていた。だが、士郎は目的が目的だけに、引きこもっている訳にはいかないのだ。
 そうなると、一番必要になるのは当然、教員資格。無許可でも、裏の事情でいけない事は無いが、それでは士郎が納得しない。仮にも人の上に立つ人間が、横紙破りなまねをするのは道理に反している、と。それに、話を進めていた凛も、相手に隙を見せるような事はよしとしなかった。結果、現行通っていた大学に無理を言って、無理矢理単位を取ったのだ。
 時計塔でも教授をやっているのだから暇なはずは無い。加えて言えば、各種引き継ぎも必要だった。恐らく、ロンドンに来て一番忙しい半年だっただろう。

「それに、冬木にいても騒がしかったし、それに……心が痛い……」
「その……元気を出してくださいシロウ」

 突然の里帰りの連絡、それに驚いた者は、実は少ない。魔術関係者には、本当の事情を話せたからだ。だから、いくらか楽ではあったのだが……知り合いの中には、当然魔術と縁もゆかりもない人間がいるのだ。例えば、藤村大河であったり。
 いきなり海外留学を決めた教え子が、これまたいきなり帰国を決めた。何事かと思わない方がおかしい。覚悟をしたつもりではあったが、しかし大河の取り乱しっぷりは予想以上だった。とにかく慌てながら「向こうでの生活は上手くいってないのか」などとまくし立てられたのだ。
 ところで、衛宮士郎は嘘が上手くない。取り繕うのが苦手であり、嘘を良しとも思っていないのだから当然だが。早い話、無理矢理ごまかそうとしてれば、知り合いなら誰でも分かるのだ。普段であれば簡単に看破できる嘘。しかしその時、藤村大河は混乱しきっていたのだ。そして、運が悪いことに、士郎も混乱しきっていた。
 だから、言ってしまったのだ。藤ねえみたいな教師になりたかったんだ、と。
 何とゆーか、もう色々凄かった。電話口で、いきなりぶわっと泣き始め、感極まる大河。どれだけうれしいかを、涙ながらに語られたのだ。これが自分の本音であれば喜べたのだが、あいにくと咄嗟に出た嘘である。訂正しようにもさえた言い訳は思い浮かばず、大河はエスカレートするばかり。この時点で士郎の精神は限界だった。就職口などを聞かれつつ、なんとか電話を切るのにだけは成功したが。
 これで終わりだと、その時は思っていた。本場は、実家に帰ってからだとも知らずに。
 日本に到着すぐ、士郎とセイバーは拉致られた。黒塗りの車に連れ込まれ、何事かと思ったが……
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