道化師が笑う終端
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分に足り得る。
「ぅあっ……離せ、こらっ! かっこ悪いって思わねぇのか! あたいと前を向いてちゃんと戦えっ!」
わたわたと慌てる声は焦りに彩られて張りが無く、武将として戦場を駆けてるのに、男勝りな感じだが、結局はそこらの女と変わらない部分もあるんだろう。
ただ、殴ってくる拳は固くて痛い。腕の骨が折れそうだ。
――だが……それがどうした。
出来るなら、お前は俺が世界を変える邪魔をしてくれるなよ、文醜。世界を変える為に、お前を此処で殺してなんかやらない。
もがく身体を腕で締め付けて、逃れようと殴る拳すら気にせずに、両の脚を踏ん張って彼女の体躯を掲げ上げる。
此処は戦場だ。俺達とお前らが殺し合いをしてた戦場だ。だけど、こんなにも面白い悪戯だってしてやんよ。
勝ち負けは生き死にだけではないのだから。
――文醜の心を叩き折るには、俺がバカやって負けさせるのが一番だろうよ。お前と同じような兵士達の前でなら余計に、さ。
「行くぜオラァァァッ!」
裂帛の気合を込めて声を上げた。
弓なりに背中をしならせて、抱え上げた彼女を……後ろの地面に叩きつけた。
そうして……彼女がバカを望むから俺の方がバカだって教えてやった。
†
「ぐっ!」
短い悲鳴と鈍い音。これで動けるモノはそう居ない。動いたとしても、もう先程までのようには戦えない。
秋斗がブリッジをした身体を起こしてぐるりと辺りを見回すと、呆気に取られている兵士達が居る。後ろで噴き出す音が聴こえ、明がケタケタと笑い始めていた。
「あはっ! あははっ! ひ、ひひっ! 秋兄……なぁにそれぇ!? あはははははっ!」
――あいつには分からないらしい。残念だ。いや、きっと誰にも理解されないだろう。
気にせず敵軍の方をじっと見据えて、また額から流れてきた血をも気にせずに拳を突き付けて声を出す。
「文醜は負けたぞ。お前ら――――」
「ま、待てよ」
投降を促そうとした瞬間に挟まれるのは掠れた少女の声。
首に手を当て、痛みから顔を歪ませてどうにか立ち上がった猪々子の脚は震えていた。
「あたいは、立ってるぜ? 負けてない。あたいは、負けないんだ。いつもなら、賭けでは、負けてばっかだけど、この戦い、あたいには絶対負けが無い!」
へへっと笑う顔は清々しい程に純粋で、また同じように、あんたバカだろと言いそうな気がした。
――こいつを敗北させないと兵士は聞かない。こいつの部隊は、きっとバカばっかりだ。黒麒麟の身体と同じ事をするくらいなのだから。
「強がるなよ。脚、震えてるけど?」
「うっさい! 通りたいならあたいを殺して通れよ! それでも……あたいの勝ちだけどな!
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