道化師が笑う終端
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も気絶せず、身体ごと吹き飛ばすような力の持ち主の攻撃でも死ななかった。
――殴り合いなんざ久しぶりだが、女に負けるわけにはいかねぇな。
するりと剣を手放して、握った拳は固く強く。
一回は一回で返そうか。避けるならそれでもいい。それなら、またコロシアイの真似事を始めるだけなのだから。
殴るし蹴るし切り裂くし……どうしても邪魔をするなら……。
ガツン、と音がしたと同時に拳に痛みが走った。生の拳で殴れば痛むのは当然。彼女の方も些か頑丈に出来ているようで、俺の攻撃では倒れなかった。
殴られても声を出さず彼女は……笑ってゆっくりと俺の方を向いた。
文醜は武器を取りに行かない。俺も武器を握ろうとしない。此れは一騎打ちとは名ばかりの、ただの喧嘩に成り下がった。
それでも俺とこいつには意味のある事で、俺とこいつにしか分からない勝ち負けがある。
顔だけでは無く、肩も、胸も、腹も、脚も、腕も……殴れるならどこでもいいと彼女と俺は一撃に力を込め続けた。
一発一発が重くて強い。とても女のモノとは思えぬ程に。
別に躱す事は出来るけど、そんなもん今はしてやろうとも思わない。
――下らない。本当ならコロシアイをしているはずだ。
冷めた自分が見下すように吐き捨てる。茶番のような戦いに呆れる人もいるだろう。
俺が選んだのはこいつの存在だ。だから効率はいらない。
楽しそうにじゃれついてくるこのバカを、俺のモノにしたいんだ。
何度も殴り合う内に彼女の指の骨が折れていた。それでも尚殴ろうとしやがる。この時代の医術では拳を砕くと治らないかもしれない。此れから先、こいつが全力で戦えなくなるのはさすがに認められない。
だから俺は、ふっと、全身の力を抜いた。
――お前がそのつもりなら退く事なんざしてやらん。けど少しやり方を変えようか。
楽しい悪戯をしよう。面白い事をしよう。此れが普通の戦いじゃないんなら、俺は俺らしく、悪戯ばかりをすればいい。
そうして俺は、彼女の拳を掻い潜って腰にしがみ付いた。殴り合いが効いているのか、それとも不意の行動に呆気に取られたのか、彼女は動作が遅れ、俺は彼女の後ろに回り込めた。
「ふぇっ!?」
異常な行動に着いて行けずに上げられた声は、可愛らしい女の子の声音。
傍から見れば俺は変態にしか見えないんだろうな、と情けなさが込み上げる。女の子の腰に抱きついてるんだ、普通なら変態で間違いない。
でも、お前らは知らないと思う。この技がどれだけ美しいのか。どれだけ雄々しく、優雅で、ロマン溢れるモノであるのか。
見せてやろう。この世界の住人に。研鑽された漢の技の美しさを。
彼女の身体は……驚くほど軽かった。俺の上がった力も相まって、その技をするには十
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