道化師が笑う終端
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は戦い方を覚えているのだ。
芯をずらした体重移動にて、身体全てを任せた上段蹴り。敵の刃は当たらず、俺の鉄板入りのブーツが咄嗟に防ごうと上げられた彼女の腕にめり込んだ。次いで繰り出す下段蹴りは、彼女の脚を掬って転ばせる。
文醜はそのまま、力の流れに逆らわずに転ばされた宙の上、驚く事に片手を地に付き飛び退いた。武器を引き摺って。
彼女の膂力があればこそ出来る力技の隙消し動作。ほう、と嘆息を一つ吐き出して、俺はまた笑う。
言葉はもういらない。今度もこっちから行かせて貰う。
そう決めてまた剣を構え、ぎらぎらと興奮し始めた文醜の瞳をしっかりと見据えてから……最速の突きを放った。
一直線。縮地を刻む脚は真っ直ぐに突き出される剣に速度の暴力を乗せ、しかし文醜の衣服を少し裂くのみだった。避けたのだ、と気付くころには彼女の拳が飛んできた。剣では間に合わないからそうした、と言わんばかりの対応だった。
やけにスローモーションに感じ取れる拳の軌道。心に湧くのは歓喜に思えた。
――そうかい。それなら泥臭い戦いをしようじゃないか。
「っ!」
ガツン、と音がして彼女と自分が止まる。
避けず、額で受け止めてやったのだ。全力の一撃なら俺の頭蓋が砕けただろうが、攻撃に合わせただけの拳では不可能。ただ、少し皮膚が裂けたようで血が滴ってきた。
舌で舐め取ると前のような生温さでは無く、燃えるように熱いと感じた。
拳の先、絡む瞳が歓喜に震えている。
――バカが好きか。お前はもっとバカになりたいんだな?
少しだけ、楽しいかもしれない。殺し合いだが殺し合いにもならないこの戦いが。
「へへ……バカだな、あんた」
「ああ、バカだよ、俺は……なっ」
声と共に、彼女の武器を蹴り上げる。まるでそうする事が分かっていたかのように、彼女は武器を手放して自由になった拳を握っていた。俺が拳を握るよりも先に。
無駄な動作の分、一寸だけ、彼女の方が速い。
なるほど、確かに強い。そう感じると同時に、隠された事に気付くのが遅れた。
――こいつは……殺し合いをするつもりがない。勝とうとも思っていない。俺が提案した事を……本気で信じてやがる。
いや違う。違った。こいつは勝とうと思ってる。だが、俺を殺そうとは思っていないだけ。約束を守るなら、一緒に顔良を逃がす手伝いをしろと、そう言ってやがるわけだ。
勝った方が負けた方の言う事を聞く。それが賭け。彼女は俺との約束に賭けた。そういう事。
面白い奴だ。だからこそ、価値がある。
ギシリ、と歯を噛みしめて腹に力を込めた。
横っ面に強かな殴打を受け、脳みそが揺れる。目の前をちかちかと星が舞っていた。
あの腹黒がいじった身体は頑丈になっているようだ。痛みはあれど
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