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乱世の確率事象改変
道化師が笑う終端
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と共に見送ったのだと、割り切る為にふるふると首を振った。

 歩みを進めて、櫓から少し遠い所で、彼は一つの人影を見つけた。
 腕を腰に当てて、ジト目でこちらを見ている人物は見慣れた少女。

「お疲れさま、“えーりん”」
「……ばか」

 労いに返される短い言葉。たった二文字にどれだけの想いが込められていることか。
 戻らなかったのか、とは聞かなかった。彼がどれだけ苦悩しているか知っている。だから聞かない。
 ぐ、と唇を噛んだ詠は彼に駆け寄りそうになるもどうにか抑え込む。

 本当は……抱きついてしまいたかった。心配かけて、と怒って。無事だったのが嬉しい、と涙を零して素直に伝えられたら……それはどれだけ満たされるだろうか。
 しかし、彼女にはそう出来ない理由がある。誰よりも彼を想っている“彼女”を差し置いてそんな事は出来なかった。

「街に帰ったら月と一緒に説教するから覚悟しときなさい」
「うん。心配かけてごめんな」
「……っ……謝るくらいならちゃんと先に言いなさいよ」
「……いつもありがと」
「……ホントに、ばか、なんだから」

 本当に言いたい事を読み取れぬ彼でもなく、それを知らぬ詠でもない。互いに踏み込み過ぎない距離を保ち、具体的な言葉にせず、詠と秋斗は互いの想いを確かめる。
 もっと続けていたいと詠は思う。だが、それをしてはならない。特に今だけは。
 無言の時が幾瞬だけ流れた。普段なら心地いいはずの時間も、今の詠の心を落ち込ませる。
 少しだけ脚が震えていた。心配そうに眉を寄せて見つめるだけで、秋斗は何も尋ねなかった。

「……ボクじゃないの」

 ぽつりと零された一言は悲哀の響き。
 大きく一度、詠は息を吸い込んで吐き出す。心を落ち着かせるように、そして……割り切る為に。

「ねぇ……“秋斗”」

 呼ぶのは彼が記憶を失ってから決して口から出さなかった真名。彼が彼である為の存在証明。
 一寸だけ目を見開いた彼は、直ぐに目を伏せた。

「ボクじゃ雛里を“戻せない”」

 さっきまで話していた少女を思い出して、尚も彼女の声は震えを強くした。

「黒麒麟だった時の“秋斗”みたいになっちゃった雛里を戻せないの」

 絶望の日に、月と詠が叱りつけて越えさせなかった線引きを雛里は越えた。
 内に持つ愛情故に、彼女は真っ直ぐのままで歪んでしまった。それが詠には哀しくて仕方なかった。

「あんたしか、“秋斗”しか……あの子の殻を破ってあげられないのよっ」

 支えると言ったのに……懺悔に彩られる心は落ち込んで行く。
 ポタリ、と雫が大地に落ちた。一歩、二歩と彼が近付き、詠の頭に優しく片手を置く。

「……おねが、い」

 撫でてくれる片手が暖かくて、耐えきれずに彼
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