道化師が笑う終端
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いう事かは皆も大体は想像出来ていた。
「あ、そや秋斗」
「なんだ?」
不意に霞が思い出したかのように声を掛けた。
「詠から、あんたに話あるから怪我の手当て終わったら陣内の北東にある物見櫓まで一人で来いって伝言預かっとるで」
「えーりんが? なんで?」
そう言えばまだ来てないなと思い至って問いかける。
バツが悪そうに顔を顰め、霞は盛大にため息を吐いた。
「まだあんたが話したことあらへん軍師……居るやろ?」
「……そういう事か」
“彼女”を知っているモノ達の意識が彼に向く。曹操軍の皆が知っている話……一人の少女の恋物語。せめて彼女に幸せを、と彼女達は願っている。
黒麒麟の始まりからずっと傍に居た少女が、ずっと彼との再会を拒んでいた“彼女”が……此処に居るのだ。
「月が此処に居らん事とか、他にもいろいろ話さなあかんっちゅうてな、詠は先に会いに行ったんや。なんで物見櫓なんかは分からんけど」
霞は知らない。彼と彼女と詠と月が、藍橙の空を見上げていた事を知らない。
戦が終わる度に彼が何をしていたか知っているのはあの三人だけで、その行いの意味を理解しているのは三人以外では華琳だけ。
「そっか……じゃあ行って来るかね」
出来る限り気楽な声を繕って、彼はどっこいせと立ち上がる。途中で明と視線を合わせた。
「……明」
「だぁいじょうぶ♪ 秋兄は秋兄のしたい事してきたらいいよ。あたしはその間にー……」
周りを見回し、明は普通に笑った。それは昏さも無い、一人の人間の笑顔だった。
「ちゃんと此処の人達に曹操軍の新入りとしての自己紹介を済ませておくからさ」
呆気に取られたのは数人。こんな顔も出来るのか、と。敵であったモノが仲間になるのは霞で経験済みであるが、明の代わり様に彼女達は付いて行けず。
「元譲、あんまり明の挑発に乗るなよ?」
「こいつの安い挑発になど乗るかバカモノ」
動じなかった春蘭に話し掛け、相変わらずだ、と苦笑を零した彼は陣幕の出口をバサリと開いた。
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃいなの」
「お気をつけて」
「ゆっくりしてきぃやー」
彼の背中に皆から声が掛かった。背中越しにひらひらと手を振って彼はソレに応えた。ああいいな、と彼は笑った。彼女達との時間も、深く聞かずに見送ってくれるところも、今の彼にとっては大切な時間。
割り切れない部分もあるかもしれないが、きっと彼女達とも上手く行くだろう……明についてはこれでいい、と彼は思考を次に向ける。
ふいと見上げた空には薄い橙色。綺麗な夕日が地平線に浮かんでいた。
――夕も一緒なら……よかったんだがな。
救えなかった少女に想いを馳せそうになるが、もう煙
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