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乱世の確率事象改変
道化師が笑う終端
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 静かな言交は決戦の始まりよりも穏やかにして麗しく。
 警戒を怠らない秋蘭や季衣、流琉には目もくれず、麗羽は華琳だけを真っ直ぐに見据え続けた。

「其処まで至るのが少し遅かったわね、“袁本初”」
「あなたは些かせっかち過ぎませんこと? “曹孟徳”」

 話すのは王としてか、それとも個人としてか……見極めた華琳は間違えずに彼女の名を呼び変えた。

「一人で来た……という事は、負けを認めたと取っても構わないかしら?」
「ええ、間違いありませんわ。既に戦闘停止の指示は出しておりますもの」

 小さく吐息を零して華琳は目を細めた。嬉しそうに、楽しそうに。そしてほんの少しの、寂寥を感じて。

「そう……じゃあ、あなたが此れからどうなるかも……分かってるのね?」
「わたくしに相応しい、美しい舞台でと……お願いしてもよろしくて?」
「ええ、あなたに相応しい、面白い舞台を用意してあげる」

 ふわり……と麗羽が馬から軽く飛び降りる。
 口元は微笑みを刻み込み、決して崩れることは無い。
 脚が震えていた。自分が此れから死ぬのだと思えば、恐くて仕方ない。それでも彼女は笑みを崩さない。
 敗北を口惜しいと感じる心はあった。負けた理由も、勝てた可能性も既に考えつくして知っている。
 結果はたった一つだけ。華琳の後ろには大勢の臣下が居て、麗羽の後ろには誰も居ない。
 両腕を手首で合わせた。両の手の平を自分で握りしめた。やはり彼女の笑みは決して崩れなかった。

「誇り高き王足り得るあなたに敬意を以って、汚さず、手を縛るだけで連れて行く」
「感謝致しますわ」

 静かな決着だった。
 血の流れない、刃が合わさらない。言葉でも斬り合わない。そんな決着。
 敗者であっても優雅なる彼女は馬に乗せられて断罪の場所へと進む。


 華琳は何を問いかける事も、話す事もせずに、己が王佐と共に先頭を切って軍を進めて行った。

「まだ終わってないわよ、桂花」
「……はい、華琳様」

 凛、と鈴の音のような声が響くも、返す声は震えていた。麗羽の成長は自分の友が死ななければ起こらない結果であると、聡く気付いてしまった為に。

「泣き顔を見せるな」
「……はい……華琳様……」

 言いながらも、彼女の頬には涙の雫がつたって落ちる。
 桂花の方を見もせずに、華琳はただ前だけを見ていた。

「終わってから……泣くなら友の前で泣きなさい。それが嫌なら、私の胸を貸してあげる」
「……は、い……華琳様……」

 バサリ、と華琳は羽織っていた外套を桂花に投げ渡した。
 くぐもった嗚咽が風に消える。先頭に居るから、彼女の涙を見たモノは誰も居なかった。









 †




「この大バカ
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