道化師が笑う終端
[17/26]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
が周りにバレてしまったら……考えるだけでも恐ろしい。
そして未だ付き従ってくれる兵士達は彼女の親衛隊だが、寄り掛かるしか出来ない彼女の側にずっと居てくれるかと言えば……否。
無一文でこれから表にさえ上がれないモノに付き従う人間など、よほどのお人よしか親愛を育んで来たモノではなかろうか。
麗羽が袁紹であればこそ、彼らは親衛隊として成り得るのだ。名を捨てて民になるのなら、彼らの存在意義は無いに等しい。
忠義を持ってくれているとしても、彼らを巻き込む事をしたくない……というのも一つ。
どれだけ考えても、どれだけ悩んでも自分が生きている姿が思い浮かばない。
それでも生きろと向けられた願いを無碍に出来ず、彼女は逃げる事を辞めなかった。
そうして街道を駆ける事幾分幾刻。林の中から笛の音が高らかに鳴り響いた。
「な……おい、まさか……」
「嘘だろ……? なんで黒麒麟の嘶きがこんなとこで……」
どよめく兵士達の声は焦りに彩られ、駆けていた馬がピタリと止まる。上司である猪々子の命令は彼女を生き延びさせろである為に、警戒するのは当然であった。
笛の音がまた一つ。今度は遠くから聴こえた。まるで……先程の笛の音に応え合わせるかのように。
兵士達は焦燥からどよめき、厳しい面持ちに変わって行く。
「まずいんじゃねぇのか?」
「ああ、こりゃあ……速く抜けちまう方がいい」
「袁紹様、如何致しますか?」
考えた末に彼女に問いかける親衛隊の隊長。麗羽は彼の名前さえ知らない。
頭がそう悪くは無く、敵がどれだけの化け物かも麗羽は知っている。彼女が真名を交換した仲である華琳の考えは読めないが、自分を捕える為に準備を怠らない事くらいは分かっていた。
故に何も言えない。もう、逃げ場などないのだろう……そう麗羽は思う。
諦観に支配された昏い眼差しを覗き込んで、親衛隊長は悲痛に眉を寄せた。
「袁紹様……」
「ちっ……あんた……何諦めてんだ……」
一人の兵士が舌打ちと共に麗羽を睨みつける。
つい、とそちらに視線をやるも、麗羽は何も言わなかった。
「おい、やめろ」
「いいや、やめないね。俺らは戦ったぞ。命を賭けて戦ったんだ。そんであんたを逃がす為に此れから戦うんだ。なのになんで……諦めてんだよ!」
言い分は正論で、兵士が感じる普通の事。
逃がそうとしている本人が逃げる事を諦めてしまうなら、自分達が戦う意味は何処にある、と。
「やめろっつってんだろうが!」
「袁家は!」
止められても、兵士が大きく遮った。
「俺が戦ってる袁家は、袁紹様の元でないと意味が無いんだよ! だから逃がす! だから生かす! だから殺させねぇ! なのにあんたが諦めてたら……意味ねぇだろ!?」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ