道化師が笑う終端
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々しくて、其処には男勝りな女武将などいやしない。
「もう、いい……分かった」
瞼に当てた腕。衣服は涙を吸って徐々に濡れて染まって行く。
「あ、あたいは……あんたの、もんに、なる……」
何を……と兵士達は驚愕のままに彼女を見据えた。泣いている少女を責めることなど出来ず、命令に逆らう事も出来ず、彼女の言葉の続きを待つしかなかった。
「あたいの、負けだ……もう、誰も……殺さないで、くれ……。
お前らも……お願い、だから……こんな所で、死なないで」
がちゃり、と金属音が一つ二つ。
すぐに、豪雨が降りだしたかのように、一斉に高く響く音が場に落ちた。
兵士達が力無くするりと零した剣が、彼女の敗北を天に響かせる。
彼女に頼まれたなら従うしかなく、泣いている彼女の言葉を聞かないわけにもいかない。
遣り切れない想いと、無力によって心に来る虚しさから、文醜隊は叫びを上げた。
「……徐公明……あんた、なんなんだよ……ちくしょう」
敗北による慟哭の叫びで掻き消され、彼女の発した涙声は誰の耳にも入らなかった。
その場から一人離れた彼は、楽しそうに笑う明と、安堵を浮かべながらも咎めの視線を送る凪の元に近付き、昏い笑みを一つ。
「さて……悪いこと始めようか」
†
猪々子がまだ戦っている。兵士達も皆戦っている。
何の為に……? 自問を幾度となく繰り返し、出てくる答えは一つだけ。
どこに行っても無価値なはずの自分を生き残らせる為に。
涙さえ流れない絶望の中、麗羽は一言も言葉を口にせずに逃げ続けていた。
彼女はただ、生きろと言われて逃げただけ。生きてくれと願われたから逃げただけ。自分の意思は、全く介入していない。
狼狽えて戦わなかったのは麗羽の失態。鼓舞も指揮も、自身の根幹が揺るがされた事で出来なかったのだ。
何処へ逃げるのだろう……考えたのはそんな事。
袁家にも見捨てられるのが確定な麗羽が逃げられる場所など、この大陸には何処にもない。袁家の名を出せば憎まれ疎まれる場所ばかりで、再起を計ろうなどとはこれだけの大敗を喫したモノが口にしても滑稽であろう。
いや……なりふり構わず、一介の民にまで落ちてしまえば生きることくらいは出来るかもしれない。
畑を耕したり、モノを作って売ったり……其処まで考えて笑えてきた。
――わたくしは……生き方が分からない。
与えられた財産、初めから持っていた力、身の回りの事など全て侍女任せ……そしてあの二人に任せていた。
だから彼女は普通に生きる事が出来ない。泥を啜ってでも生き延びろとは言っても、根本的に生き延び方が分からないのだ。
恐怖もあった。もし生き延びていたとして、ひょんなことから彼女の正体
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