道化師が笑う終端
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うとしていたのがこんな奴だなんて……燃える心があった。
こんな冷たい奴にあの男達が従っていたのか……其処まで考えて、彼女の心にやるせなさと怒りが同時に湧いた。
「こんのっ……クソ野郎ォォォッ!」
立ち上がり向かうのは、自然と口から吐き出された叫びと共に。
もう考えることなどしない。只々、彼女は彼を殺してやろうと武器がなくとも襲い掛かった。
しかし、あらん限りの力を込めて向けたはずの拳も……秋斗には、通じない。
「ぐっ……うぁ」
彼は振り向きざま、肉薄した猪々子の胸に手を当てて引き倒した。
背中を打ちつけて一寸呼吸が止まり、頭を打って視界に星が舞う。
もう抑え切れず、猪々子の部隊が動き出していた。雄叫びを上げて、彼女の兵士達が彼を殺そうと武器を持ちて駆けてくる。
「まずいっ!」
「おっと……動かないでいいよ。秋兄が選んだんだから秋兄に任せなきゃ♪」
「しかしっ――」
「あたしは信じてるけどあんたは信じられないの?」
「……っ」
後ろでは明が凪を止めていた。曹操軍は兵士を動かすな、と。彼に襲い来る敵に向かうことは許さない、と。
彼を信じろ……それはまるで明の大切を救いに向かったあの時のように。
凪は手を上げて兵を制した。戦闘に直ぐに赴けるように準備をさせたまま。
明と凪のやり取りも殺意を向けて迫りくる敵兵も、なんら気にする事なく、秋斗は猪々子の耳に唇を寄せて……ぼそり、と言葉を紡いで渡した。
「なぁ、文醜。俺は――――」
つらつらと話される事柄に、彼女の目が大きく見開かれる。
震える身体、唇から零れる吐息は熱く冷たく。瞳に浮かぶ感情は恐怖にも思えて、悲哀にも満ちていた。
「――――ってことだから此処からは新しい賭けをしよう。お前はどっちを選ぶ? 救いたいモノの為に縋り付いてでも生きるか、意地を貫き通して死ぬか」
近づく兵士はもはやあと一丈程の距離。振りかぶられた幾多の剣が日輪の光を反射して輝いていた。
文醜隊の兵士が彼に向けて剣を振り下ろす……前に、彼らの掲げる将の口から、一つの命が下された。
「こいつを、殺すなっ!」
大きな声は誰もの耳に届き、しんと静まり返る場。ピタリと止まった兵士達が、彼の事を睨みつけていた。
沈黙が場を支配していた。誰も話そうとしない。皆が次の言葉を待っていた。静寂を打ち破れるのは……一人だけ。
「……っ……ぅ……っく……ぅぇ……」
幾分、小さく、嗚咽が響き始める。
大地を背に、少女が一人泣いていた。
身体を離した彼は空を見上げて嘆息を吐き出す。疲れからか、それとも胸に来る痛みからか、吐き出された吐息は重く冷たく感じた。
「……いい、よ」
しゃくりあげながらの声は弱
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