道化師が笑う終端
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と首を振って否定を示す。
「うそだ……うそに、決まってる。そんな、最初から戦場で戦うあたい達が眼中に無いみたいな戦い……そんなの、あるかよ」
「事実だ。受け入れろ」
まるで敵である自分達でさえ駒であったような戦を認めるなど、必死で戦っていた彼女には出来ない。
認められないから受け入れられない。猪々子は、犬歯を剥いて彼を睨みつけた。
「でまかせ言ったって降参なんかしてやんないかんな!」
「それならそれでいい。許緒に典韋に夏侯淵はお前も知ってる通り強いし、曹操殿も夏候惇と同じくらい強いらしいんだが……ただの兵卒如きで止められるとでも? それも捨て奸の為に減らした数で」
「……っ……てめぇ……」
迷いが生まれる。直ぐに助けに行かなければと思うのに、勝負が付いていなくてこの場を離れられない。
敵の言葉だ。本当は信じる方が愚かしい。しかし……それなら斗詩の命はどうなる? 彼の言葉を信じて助かる方に賭けたのに……と、矛盾が彼女の心を乱して散らす。
「騙して悪いが……お前はこの賭けを受けた時点で始めっから負けてんだ文醜。勝ちの目なんざ一つたりとも無かったのさ」
「それが……お前の遣り方かよ、黒麒麟」
「ああ、そうだ」
嫌いじゃないと思っていたのに……こいつは嫌いな男と同じだと、猪々子は思う。
ギシギシと歯を噛み鳴らした。燃え上がる心は怒りに染まる。振れ幅の大きい感情の変化は、容易く彼女を呑み込んでいく。
「……最低のクソ野郎だ、あんた」
「ああ、その通りだよ。俺は最低のクソ野郎だ。んで、大嘘つきの大バカもんだ」
吐き捨てられた言葉にも動じず、彼は彼女の顎をつまんで上げ、じっと碧水晶の瞳を覗き込んだ。
憎しみの炎が燃えはじめていた。絶望の昏さが宿っていた。それでも秋斗に勝てればどうにかなるかもしれないと、意思の光が輝いていた。
ふっと笑い、秋斗は彼女の顎から指を離して立ち上がる。
一歩、二歩と歩みを進める彼の背を睨みつけて……猪々子は全身の力を振り絞る。
――なんでだよ……あんたは、あの徐晃隊の親玉なんじゃないのかよ。
徐州では彼ら誇り高い死に様に敬意を表した。
命を捨てて彼の為に戦う兵士達が眩しくて仕方なかった。
自分もそうなりたいと思っていた。
今は自分もそうなっているのだとさえ歓喜していた。
なのに彼は、猪々子の最も嫌いなあの男のように、人の心を弄んで利用する。
「……うそつき」
呟いた言葉は小さくて、彼の耳には入らない。
「あんたは……最低だ……」
今まで散らせた命にも嘘をついてきたのか、と彼女は思う。
――そんな戦いして……死んでいった奴等は満足出来るのかよ……
最後まで笑みを浮かべて死に行く男達が守ろ
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