道化師が笑う終端
[13/26]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いの、命はあたいの、もんだ。お前のもんに、なんかならない」
「いいや、お前は俺が貰う。お前は俺に……従うしかなくなるさ」
振り向いて月光の横に立つ明と視線を合わせると、彼女がべーっと舌を出して笑って来る。あなたは何を食べるの、と問いかけるように。
少しだけ頬を吊り上げて、彼は無言でまあ見てろと伝え返した。
下から睨みつける猪々子を見下して、は……と彼は嘲りの吐息を吐き出す。
「お前の勝ちは袁紹と顔良の命が繋がる事、だろ? それなら他人に任せちゃあいけないな」
しゃがみこみ、合わせた視線は冷たく昏い。
犬歯をむき出しにして睨む猪々子に対して、トン……トン……と猪々子の額を指で叩いて、彼は尚も続けて行く。
「曹操軍は追撃をしない。“お前らがこの道を選んだ時点で、端っから追撃にやる必要なんざ無かったんだ”」
意味が分からない、とばかりに首を傾げる猪々子。
自分達が選んだのは戦場で決断を下したからだ、だからお前らは追撃するしかないだろう、頭に浮かぶのは自分視点から見た当然の答え。
「分からないのか? 分からねぇよな。じゃあさ、なんで舌戦の後に、曹操軍の大将は一度も姿を現していないと思う?」
ふと、自分の知っている誰かが、思考を積ませるような言い聞かせ方をしていなかっただろうか……と感じた。
黒髪と黒瞳であるからか、性別も話し方も違うのに……猪々子には彼が失われた軍師とダブって見えた。
茫然。彼女の思考が真っ白に染まる。
「それになんでお前らが官渡で戦ったはずの……許緒と典韋、そんで夏侯淵が戦場に居なかったと思う?」
並べ立てられる言葉を受けて徐々に回り出す思考。彼女の拳が、ギシリ、と音を立てた。
「曹操軍はな……この戦いを始めた時から袁紹を捕まえる為に動いてたんだよ」
「……うそ、だろ?」
弱々しい声には絶望の昏さ。膝が震えてしかたない。力無く、視線を向けていた瞳がブレてしまう。
「官渡に仕掛けた秘密基地はお前らの逃走経路の限定と本隊の発見の為に。張遼は将と戦わず多くの兵を引き付ける為に。夏候惇は文醜を部隊ごと動かさない為に。楽進と于禁は顔良を縛り付ける為に。白馬義従と張コウ隊は恐怖の助長と二枚看板の意識と連携を割かせる為に。そして俺と明は……お前に捨て奸をさせる為に。
全ての駒は十分に動いた。これで王手。袁紹軍は……袁紹はもう、詰みなんだ」
全ては掌の上。否、各々の駒達が独自に、覇王の求める結果の為に動いたと言えようか。
どんな状況になっても対応しきれる手を残しつつ、一番起こせる可能性の高い一手に照準を絞って……秋斗は盤上の駒として動き、華琳は打ち手として、そして自身も駒として王手を先読み、見極めた。
信じられない、と猪々子はふるふる
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ