道化師が笑う終端
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が負けない限り、あんたは追わないって、言った。その言葉を、信じる」
いいな……と彼が小さく呟いた。
誰にも聞こえないその言は風に流れて消える。
彼女の後ろを見れば、彼女の部隊の者達が目を爛々と輝かせてこちらを見ていた。
――文醜を殺しても捨て奸に移行するだけ。兵が動けばこっちの兵も動かさざるを得ない。死に物狂いで俺を殺しに来るから、こっちの被害が増えちまう。
猪々子が負けを認めさえすれば終わる戦。きっともう、春蘭と霞が戦場は掌握しているだろう。
軍師達も華琳も、一人でも犠牲を減らしたいだろうとは秋斗とて分かっている。
――ならさ、お前を俺のもんにしちまうしかないよなぁ。
彼は薄く笑った。もう終わりにしよう……そう言うように。
「バカになるのはやめだ。お前が死ぬまで戦うってんなら……こっちにも考えがある」
楽しげに笑っていたさっきまでとは全く違う笑みに、猪々子の笑顔も消える。
冷たい空気に変わった。ついさっきまでは熱に溢れていたというのに……切り替わった彼は、猪々子にとって別人のように感じた。
離れようと思ったその時に、
「ぐぅぇ……かは……」
彼の膝が猪々子の腹にめり込んだ。
呼吸が出来ず、その場に膝から崩れ落ちる。空っぽの腹の中から胃液を吐き出し、それでも苦しみは止まらない。
立ち上がろうともがいても膝に力が入らなかった。抗い続ける限り麗羽は追い詰められない。だから、と彼女はもがいて足掻く。
ほう……と感嘆の吐息を吐いた秋斗から、楽しげな声が紡がれる。
「いいな、お前。そういう奴を探してた。大事なナニカを守りたいなら、全てを賭けて俺のもんになれ」
上から圧しかかる冷たい声。耳に入った言に、とんでもないモノを見たというように彼女の表情が驚愕に染まる。
「は、はぁ? あんたの、女になれ、ってか? 冗談、きついぜ。あたいは、なぁ……斗詩だけを、愛してんだ」
苦しさから息も絶え絶え、嫌悪感から眉を顰めて、ゲスが……と言うように口に溜まった血を吐き捨てた。
目をぱちくりとさせた彼は苦笑を一つ。
――ああ、そうだわな。さっきのじゃあ人質を利用して女侍らせようとするクズ男にしか思えないわな。
言い方が悪かったと漸く気付く。
「……女としてのお前さんには興味ねぇよ。俺が欲しいのはお前の将としての力とその真っ直ぐでバカ正直な在り方。曹操の部下としてじゃなくて、俺の下でその命を使えってこった」
女として興味が無いのは他の誰かなら傷つくかもしれないが、猪々子としては全く気にならない。
問題はその後。麗羽の将を辞めて自分の下に着けと言っているのだ。当然、認められやしない。
苦しむ猪々子の目が細まった。
「あ、あた
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