道化師が笑う終端
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」
秋斗は目を細めて彼女に歩み寄る。剣を拾い上げる事はしなかった。
時間稼ぎの役割は果たした。捨て奸による将の足止めは成功している。だから猪々子は自分の勝利を信じて疑わない。
拳を握った彼女は、まだ秋斗を倒そうと腕を振った。
――そうかい……ならお前が納得するまで殴ってやろうか。
一発目。
彼女の拳が秋斗の頬を打った。思いの外強い一撃に驚愕はしたが、やはり力が落ちていて体勢を崩させることさえ叶わなかった。
秋斗は、ぎゅう、と握りしめた拳を彼女の腹に突き刺した。
「ぐっ……うぉ……ぇ」
くの字に曲がる身体、吐き出される胃液、苦悶の声が小さく漏れる。
ああっ、と彼女の部隊から声が上がる。それでも一騎打ちだからと、彼らは手を出そうとはしない。
部下が近づかない事に、彼女は満足したのか笑って立ち上がった。彼の気分次第で一方的な殺しに出来るこの戦いを、まだ続けようかと、秋斗に向ける視線は些かも光が衰えず。
二発目。
向かい来る彼女はまた拳を振りかざす。彼に避けるつもりは無かった。力が抜けた膝のせいで、振られる拳は胸の位置にまで落ちる。受け止めて、彼はまた拳を固く握った。
猪々子の目には彼の顔が良く見えた。ふらふらの頭で、彼の笑みが眩しく映る。
――さっさと殺せばいいのにさ、あたいに付き合ってくれるなんて、あんた……やっぱりバカだよ。
右腕が振り下ろされた。身長差から脳天に当たり、べしゃりと地面に這いつくばる。
ぐぐっと両の拳を握って立ち上がろうとする彼女を見て、秋斗は先程の発言にひっかかりを感じて思考が巡る。
――負けない……? 死んでも負けないってのは変だ。いや、他にも何か……
頭の片隅に浮かんだのは、自分が彼女ならどうするか。
自己の命を度外視する選択を取ったのなら、考えられるのは一つだけ。
彼女の勝利は友の命。麗羽を逃がせると信じきっているから折れなくて、秋斗達が斗詩を殺さないだろうと信じているから満たされている。
眩しいな、と秋斗は思う。
他人を信じるその心が。嘘つきな自分を信じている……真っ直ぐな少女が。
「死んでも構わないってか?」
「ああ、あたいは、此処で死んでもいい。曹操に従ってなんか、やんない。あたいは姫の為だけの将で……姫の友達なんだっ」
忠義と共に親愛の想いから、彼女は引く事無く命を賭けている。
また向かってきた猪々子の拳を受け止め、膠着して視線を合わせた。
分かっていて聞いた秋斗は、もう一つ問いかけを投げてみた。
「顔良と共に生きようとは思わないのか?」
「じゃあ、逆に聞くけど、負けを認めれば、姫を見逃すのか?」
「はっ……無理だな」
「だろ? だからあたいは、引かないし従わない。あたい
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