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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その7)
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プ公は怯えているのだ。あの男の権力を利用しての汚職に比べれば我ら若い貴族の放埓など児戯に等しいだろう。あの男のやり方には皆が批判的だ。つまりあの男には頼りになる友人がいない、孤立している」
「……」

放埓をしている貴族が言うと真実味が有るな。もっとも本人と面と向かってはそんな事は言えない。言えば怒りまくるだろうし話も終わってしまうだろう。フレーゲル男爵が怖いわけではないが今は聞かなければならない事が有る、そちらを優先すべきだ。

「宮中においては孤立することほど恐ろしいものはない。カストロプ公は孤立しているから身を守るために権力に執着する。孤立しているから何も信じられず金に執着する。そして常に自分を脅かそうとしている者が居ると考えている。一種の被害妄想だ」
「……馬鹿げている」

その被害妄想が俺がルーゲ伯爵、マリーンドルフ伯爵達と手を組むと考えさせたのか? 姉上がそれに加わるだと? そして今回の一件が起きた? 全く馬鹿げている、一体何を考えているのか……。大体俺に何のメリットが有ると言うのだ。

確かにマリーンドルフ伯もルーゲ伯もそれなりの人物ではあるだろう。だが今手を組む事に何の意味が有るのだ。ブラウンシュバイク公やリッテンハイム侯に危険視されるだけだろう。

「卿の言う事が事実ならミュッケンベルガー元帥はカストロプ公と手を組んだ事になるが元帥に何の利益が有る? 私を嫌っているのかも知れんがそれだけでカストロプ公の言いなりになるかな?」
俺の問いにフレーゲル男爵が頷いた。そして俺をじっと見て苦笑した。馬鹿にしているようではなかった。どうも妙だ。

「カストロプ公は財務尚書だ。予算を握っているのだぞ。軍事費を多少増額してやると言われればミュッケンベルガー元帥も首を縦に振るだろう……、卿はそう思わんか? 自分の働きによって予算が増えたとなればエーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥にも大きな顔が出来る、違うか?」
「……違わない」
確かに違わない。渋々答えた俺にフレーゲル男爵が満足そうに頷いた。相変わらずムカつく男だ。

「卿を戦死させろとは言わなかったかもしれん。戦死されては後々面倒だからな。しかし、図に乗らせるなとは言った可能性が有る。出征前、頻繁に二人は会っていたようだ、しかも人目を避けてな」
「……まさか」
フレーゲル男爵が可笑しそうに笑った。

「今回の戦いで卿が敗れれば、こう言う声が上がっただろうな。ローエングラム伯爵家は武の名門、ミューゼル大将にはいささか荷が重いのではないか……。皆、卿が伯爵家を継ぐ事を快く思ってはおらん」

そう言うとフレーゲル男爵は“卿は嫌われているのだ、日頃の行いが悪い所為だな”とニヤニヤしながら付け加えた。改めて心に誓った、いつか必ず絶対に嫌というほど殴ってやる!


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