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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十四話『猛獣使い』帰還せり
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伸ばしている馬堂家の躍進の背中を護り続けている彼らは人数こそ十数名に過ぎないが、馬堂豊長を当主とする馬堂家に忠誠を誓っており、時には積極的な(・・・・)自衛活動に携わることも珍しくない。
そこらの邏卒よりもよほど荒事に慣れている。

「御育預殿よくいらっしゃいました」
 家令頭の辺里が新城を迎える。
「此方へどうぞ」

 新城直衛が応接室に入ると見知った馬堂家の当主とその次代を継ぐ男、そして見知らぬ貴族らしき男の三人が彼を出迎えた。
「よくいらっしゃった、御育預殿」
「いえ、僕が急に押し掛けたのです。豊守殿」
 旧友である豊久の父として新城が慣れ親しんだ相手であるが、今は厳しい表情で新城を眺めている。
 輜重兵として東州内乱に従軍し、負傷した後に後方勤務に配置されてから頭角を現した軍官僚である。
「それで――失礼ながら其方の方は――」
 新城がそう云いながら見知らぬ貴族らしき男を観る。
「――君とは初めてになるかな?新城少佐。君の話は豊久君からよく聞いているよ。
内務勅任参事官の弓月由房、故州伯爵だ」
  ――弓月、あぁ豊久が逃げ回っていた婚約者の家か
過去を思い出し、新城は僅かに口を歪めた。
婚約者云々は、新城が豊久を揶揄うネタの一つであった。
「失礼致しました、閣下。馬堂少佐殿から閣下の事はお聞きしておりました」

「それで何の用でしょうか?御育預殿。」
馬堂豊長は新城に向き直り丁重な口調で云った。
五将家支配への過渡期に騎兵から憲兵へ転向し、陸軍の国軍化に一方ならぬ貢献をなした人間である、今では退役し駒州公篤胤の右腕として政財界に転進しているが往年の眼力は衰えていなかった。
 ――豊久が帰還しなかった意味は戦死か捕虜かのどちらかしか無い、そして僕にはそのどちらかなのか、それすらも答えることは出来ない――とんだ土産をおしつけられたな。
残った旧友達の事を思い、苦いものがこみ上げてくる。
「はい、最初に、馬堂豊久少佐より文を預かっております、御改め下さい。」
文を豊守が受け取り、目を通すと面白そうに微笑し、豊長少将に渡した。
「成程――父上、これは面白いと思いませんか?」
「ん。これは・・・ふむ・・・」
 老齢の当主も声は困った風であるが口元が緩んでいる顎を撫でる。
その様子を偕謔味に満ちた目で見ながら豊守が口を開く。
「まず少佐に知らせるべき事として
第一に新城少佐の事を自身の意志で大隊長として任命している事
第二に以降の軍務においても君を大隊長として正当に扱って欲しいそうです。」
「はい、閣下」
公私半々だからかどちらも丁寧な口調で応答する
「後は・・・まぁ此方の話ですな。」
豊守准将が困った顔で三人目の男を観る。
「おや?それには私も含まれているのかな?」
機嫌良く黒
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