第4部 誓約の水精霊
第4章 惚れ薬
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い?」
ギーシュが尋ねた。
「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」
モンモランシーが指差した先に、藁葺きの屋根が見えた。
ウルキオラは、澄んだ水面の下に黒々と家が沈んでいることに気付いた。
モンモランシーは波打ち際に近づくと、水に指をかざして目を瞑った。
ウルキオラとルイズも馬車から下りた。
モンモランシーは暫くしてから立ち上がり、困ったように首を傾げた。
「水の精霊は、どうやら怒っているようね」
「わかるのか?」
「私は水の使い手。香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は何代も務めていたの」
「なるほどな」
ルイズは話には興味がないのか、ウルキオラの後ろに隠れて、服の裾をついついとつまんでいる。
ギーシュはシャツを脱いで扇いで乾かしている。
その時、木陰に隠れていたらしい老農夫が一人、一行の元へとやってきた。
「もし、旦那様。貴族の旦那様」
初老の農夫は、困ったような顔で一行を見つめている。
「どうしたの?」
モンモランシーが尋ねた。
「旦那様方は、水の精霊との交渉に参られた方々で?」
一行は顔を見合わせた。
どうやらこの農夫は湖に沈んでしまった村の住人らしい。
「私たちは、ただ、その……、湖を見に来ただけよ」
まさか秘薬『水の精霊の涙』を取りに来た、と言うことも出来ずに、モンモランシーは当たり障りのないセリフを口にした。
「左様ですか……。まったく、領主様も女王様も、今はアルビオンとの戦争に掛りっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。畑を取られたわしらが、どんなに苦しいのか想像もつかんのでしょうな……」
はぁ、と農夫は深いため息を漏らした。
「いったい、ラグドリアン湖に何があったの?」
「増水が始まったのは、二年ほど前でさ。ゆっくりと水は増え、まずは船着場が沈み、寺院が沈み、畑が沈み……、ごらんなせえ。今ではわしの屋敷まで沈んでしまった。この辺りの領主様は領地の経営よりも、宮廷でのおつきあいに夢中でわしらの頼みなんか聞かずじまい」
よよよ、と老農夫は泣き崩れた。
「長年この土地に住むわしらにはわかります。ちげえねえ、水の精霊が悪さをしよったんですわ。しかし、水の精霊と話せるのは貴族だけ。いったい何をそんなに怒っているのか聞きたくても、しがない農夫風情にはどうしようもありませんわい」
モンモランシーは困ったように頭を掻いた。
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