第十四章 水都市の聖女
第七話 戦いの始まり
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」
「……夢じゃないんですか」
僅かに遅れた返事、微かに揺れる声。
士郎は再度聞く。
強く、有無を許さぬ声を持って。
「もう一度聞く―――あれは、何だ」
沈黙が部屋に満ちる。
一秒―――十秒―――互いの呼吸の音のみが響く。
そして、耐え切れなかったように、鋭く息を呑む音の後、ため息と共に絞り出された声が溢れた。
「……夢、ですよ……“ガンダールヴ”が見た……遥か過去の夢」
ギュッ、と靴底が床を踏みしめる音と―――深く、大きく息を着く音が響く。
足音は―――まだ響かない。
「……ジュリオ、お前は初代“リーヴスラシル”がどんな者だったか知っているか?」
「え? それは……知りません、と言うよりも、誰も分からないのではないのですか? “リーヴスラシル”は虚無の使い魔の中でも特に謎に満ちています。その役割も、力も……何せ詩にも『記することもはばかれる』とあるぐらいですからね。それが何か?」
あまりにも予想外の方向からの問いに、最後まで士郎に背を向けていたジュリオが反射的に背後を振り返ってしまう。士郎は扉へと顔を向けたまま振り返ってはいない。ジュリオの視線が彷徨うように士郎の背中を彷徨う。
士郎はその視線に押されるような形で足を動かし扉へと手を伸ばした。
「いや。少し気になってな」
「シロウさん」
僅かに空いた状態で士郎の手がピタリと止まり扉の隙間から風が入り込む。
「何だ」
「勝てますか?」
ジュリオからの問いに、士郎は止めていた手を一気に開き―――
「―――誰に言っている」
―――部屋の外へと姿を消した。
「「「「―――はぁ〜〜〜〜〜〜…………」」」」
馬や人の足音、大量の荷物を積み込んだ荷馬車の車輪が回る音、甲冑の擦れる音、騎馬の嘶き―――数百人による行軍の騒音の中、四重の溜め息が重々しく響いた。すると、発生源たる馬に跨り横並びに進んでいる四人の背後から顔を顰めたキュルケが抗議の声を上げた。
「……景気が悪くなるからそんな溜め息つかないでよ」
「そうは言うがね。いきなりガリアと戦争が始まったといわれるやいなや『“虎街道”に潜む敵部隊を殲滅せよ』だよ。全く無茶を言ってくれる。そりゃ溜め息の一つや二つ着くのも無理はないよ」
「そうそう。まあ隊長たちがいれば少しは気は楽だった筈なんだけど……肝心の隊長は戦争が始まったっていうのに未だ姿を現さず、頼りの副隊長殿は別の任務について別行動。上の連中は本当にぼくたちだけで勝てると思っているのかな?」
「さてどうだろう。まあ、ぼくたちを戦力とは思ってはいないんじゃないかな。
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