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剣の丘に花は咲く 
第十四章 水都市の聖女
第七話 戦いの始まり
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まっただろうからな」
「暫くはその心配はないと思いますよ」

 ベッドから立ち上がり扉へと向かう士郎が、未だ椅子に座ったままのジュリオの横を通った時、囁くようにジュリオが話しかけた。士郎の足がピタリと止まる。士郎が顔を動かさず目だけで背後のジュリオを見る。ジュリオは顔を動かさず士郎に背中を向けたまま。

「―――それはどういう意味だ」
「それどころじゃないという事ですよ」

 嫌な予感を士郎は感じる。
 扉へと向けられていたつま先が向きを変え、椅子に座ったままのジュリオの背中へと向けられた。士郎の目が、ジュリオを見下ろす。

「それどころじゃ、ない?」
「実はガリアが攻めてきていまして。国境では今も激しい戦闘が繰り広げられています」
「っ、貴様ッ」

 一瞬にして、士郎は何があったのか理解する。ジュリオ―――ヴィットーリオは力を欲していた。戦うための力を。そう、戦争の決定打となりうる可能性を持つ力―――“虚無”を。
 そして士郎はそういった輩が必要ならばどんな方法も取ってくる事を知っていた―――知っていた筈であった。
 油断―――していたのだろう。
 自分の油断で大切な人たちが危険な目にあっている。自分に対する怒りで一瞬に血が頭に上り、硬く握り締められた掌に爪が食い込み血が滲む。

「あなたの主や水精霊騎士隊(オンディーヌ)も丁度着いた頃だと思いますよ」
「―――俺を人質に取ったか」

 食いしばった歯の隙間から押し殺した声が漏れる。ゾクリとジュリオの身体が震えた。

「……否定はしません。ガリアが攻めてくるのは確定でした。ぼくたちだけでは勝てるかどうか分かりませんでしたので」
「判断を誤ったな。一度無くした信用は取り戻すのが難しいぞ」

 士郎の脳裏に笑いながら怒りを見せるルイズたちの姿が浮かぶ。同時に頭に上っていた血が戻り、深く息を着き落ち着きを取り戻した。

「それほど事態が逼迫していたということですよ。ミョズニトニルンが例の騎士人形を大量に運用しているようで。最初に迎撃に向かった者たちは全て全滅しました。残念ながらこの国(ロマリア)にはあなたたちのような化物(英雄)がいないので、手を選んでいる余裕がないんですよ」
「…………言い訳は後で聞く。それで、ルイズたちは今何処にいる」

 愚痴のように言葉を吐き捨てたジュリオの後ろ姿を切り捨てるように扉へと身体を向ける。

「ここから北へ十リーグ先にある“虎街道”の入り口です。あなたの足ならそう時間も掛からないと思いますよ」
「分かった」

 扉へと向かって歩き出す士郎。その足が、唐突に止まる。

「……一つ聞きたい」
「何ですか」

 背中を向け合い、言葉を交わす。

「俺が見たあの夢……あれは一体何だ(・・)
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