暁 〜小説投稿サイト〜
春の丘の上
天使の最後
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[9] 最初
桃花は顔を押し付けて、一言ずつ絞りだすように話した。
「二度と治らない病気なの。でも、私が死んでも誰も悲しまないの」
そう言う桃花の肩はさっきよりも震えていた。
「なんでそんなこと言うの?」
僕は桃花の肩を持って彼女を胸から剥がした。
そして、僕は桃花の顔をしっかりと見つめた。
桃花の瞳にはまた涙が溜まっていた。
「なんでそんな風に諦めるの?悲しむ人がいないって本当に思ってる?」
桃花は僕の顔を見ない。
それでも、僕は続ける。
彼女との未来のために。
「諦めないでよ!?僕が大きくなって、桃花の病気を治すから!それまで一緒に頑張ろうよ!」
「死なないでよ……」と僕は消えそうな声で叫んだ。

桃花は僕の涙を拭って言った。
「ごめんね、紡。私ね、死ぬのが怖くなかったの。こんな世界を生きているほうが辛かったの」
僕は桃花を見上げた。
「でもね、今怖くなった。紡に会えなくなるのが怖くなったの。もっと紡と笑いたいの」
桃花の真後ろにある夕陽のせいで、桃花の表情は見えなかったが、僕には笑っているように見えた。
「僕もだよ。僕も、桃花とずっと笑っていたいよ!」
僕がそう言うと、桃花はニッコリと笑った。
「ありがとう。それだけで充分よ」
僕には桃花が何を言おうとしているのかが分かっていた。
だから、桃花の肩を掴んでいた。
そして、桃花が最後の言葉を囁いた。
「さよなら」
桃花の体は、丘の上から真っ逆さまに落下した。
僕は彼女に突き飛ばされ、ベンチまで転がった。
そしてすぐに、桃花に手を伸ばした。
しかし、彼女は僕の手の届かないところへ行ってしまった。
その日から僕は人と関わることをやめた……
[9] 最初


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