暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
~恋慕と慈愛の声楽曲~
Bittersweet Day
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界での話です」

感情論が、人の心の機微がすべて文字で言い表せるとはとても思えない。

たとえば、愛の方程式なんかがあったとしよう。

α+β=愛

こんな方程式が実際にあった場合、そこに出現するのは甘ったるい幻想(れんあい)ではない。出てくるのは、どこまでも寒々しい現実(リアル)だ。

だから――――

「心理学者の論文めいた文章でも、ハムレットのセリフでも、ホントのところ愛情って言い表せてないと思うんですよ。他者(ひと)の心なんて、本当の意味で分かるはずがないんですから」

ふっくらと仕上がったガトーショコラを慎重に切り分けながら、《閃光》と呼ばれた少女は言う。

「だから、カグラさん。今わたしが言ったことを踏まえて、もう一度考えてください」

一旦そこで、言葉を切る。

「あなたは、レン君のことが好きですか?」

「私は――――」

頼りなさげに揺れる心を投影するように泳ぐ炎のような光彩を眺めながら、アスナは味見と言いながらフォークで差したケーキの断片をえいやっとカグラの半開きになっていた口に放り込んだ。

むぐ、と半強制的に言葉を切られた女性は、砂でも噛んでいるかのような微妙な表情でしばらく口を動かしていたが、ほわりと花がほころびるように表情を変化させた。

「…………美味しい、です」

「でしょ?」

にひひ、と笑いながら少女は自身の分も切り取って口に含む。

「味みたいなんですよ、恋って」

甘い時も。

苦い時も。

酸っぱい時も。

色々な時があって、その時々で味が変わる。

愛とは、好意とは、恋とは、複雑であって案外簡単で単純なものかもしれない。

「ごめんなさい。いくらなんでもイタズラが過ぎました。今の質問は忘れてください」

「は、はぁ」

カグラのうちの、レンに対するものが何かはまだ分からない。

それはただの好意かもしれないし、恋かもしれないし、愛かもしれない。

だがそれは、自分で答えを出さなければならないことであって、他人から訊かれて急いで出すようなものでもない。焦るようなものでもない。

じっくりゆっくり。

マイペースに。

空気を切り替えるようにパン!と手を打ち鳴らしたアスナは、くるりとケーキナイフを手の中で回した。

「さて、あとは粉砂糖を振りかけたらおしまい!贈り物なんだから、包装にも気を配らないといけませんよね?」

さ〜てどういう感じに飾ったらいいかしら、と切り分けに戻る少女だが、しかし期待していたような返事がまったくといっていいほど聞こえてこない。

訝しげに振り返ると、カグラはいましがた切り分けたケーキの一ピースをじっと見つめていた。

「ど、どうしたんですか?」

まさか
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