暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
~恋慕と慈愛の声楽曲~
Bittersweet Day
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れた生地が備え付けの特大のオーブンでゆっくりじっくり焼きあがっていく光景を耐熱ガラス越しに見ながら、《閃光》アスナは自らのおとがいに人差し指を当てた。

そうですね、という言葉の間も思考。

やがて、一言一言確かめるように唇を開く。

「わたしも、カグラさんが本当に欲しいような答えは出て来ませんが」

「それでもいいです。……お願いします」

ふむ、ともう一度アスナは考え込んだ。

いかなる事情があるかは知らないが、眼前の女性は真剣そのものだ。これにふざけた言葉を返す勇気は、さすがに今の自分にはない。

「どっちがどう違う、とは言えません。好意も愛情も、根っこのトコじゃ相手を思いやる気持ちってことですからね」

そこまで言ったら、スッと巫女の表情に影が落ちる。

でも、とアスナはあえてその上に重ねた。

「でも、あえて違いを見つけ出すんなら、好意のほうが《単純》ってことでしょうか」

「たん…じゅん、ですか」

「はい、ここからは心理学に触れることになるんですけど、好意っていうのは好きか嫌いかの二択になるらしいんです」

好きか嫌いか。

この巫女が何に葛藤しているかは分からないが、それくらいなら誰でも答えを出せるだろう。きっと。

「……では、愛はどうなのですか?愛情は?」

「………………………………愛憎です」

「あいぞう?」

アスナは手のひらに愛と憎の字を、人差し指の軌跡で表して見せた。

それを見たカグラは、なんとも複雑そうな表情を浮かべる。そりゃあ確かに、アスナ自身もそんな感じなのだけれど。

「相手を思う心に、憎しみがあってはいけないと思うのですが」

それはもっともだ。実際、アスナだってそう思う。

心理学者ロバート・スターンバーグによると、愛は情熱・親密さ・意気込みで構成されているらしい。

各構成要素の特長は、情熱は恋愛感情や肉体的な魅力、性的な欲望。親密さは温かみや相手との近さ、繋がり、絆といった感情。意気込みは誰かを愛する決意、愛を維持しようとする意志。

そのどこにも、憎しみの文字は入っていない。

だが現在の人間心理学では、愛情とは正負一体であるという考えが提言されている。

「愛情とは、正負一体でなければならない。表裏一体でなければならない。……愛憎一体でなければならない」

「……私には、分かりません」

困惑するようにかぶりを振るカグラに微笑みかけ、アスナはオーブンの取っ手に手をかけた。

扉を開けると、ココアパウダーとチョコレートのミックスしたほろ苦い香りがふわっと漂ってきた。苦さの中に甘さの混じる不可思議な匂いが鼻孔をくすぐっていく。

「わたしだって分かりません。今のはあくまで、文字で表せるような世
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