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外伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
追憶 〜 帝国歴487年(一) 〜
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の口添えが有ったのかもしれん。内乱を防ぐにはあの若者の力が必要だ。となると宇宙艦隊司令長官の人事はその辺りも考慮せねばならん。
「現時点では一階級降格、一カ月の謹慎処分にしてある。謹慎処分の期限が切れるまでに決めねばならん」
「ミュッケンベルガー元帥の後任人事も含めて、そういう事だな」
シュタインホフ元帥が探るような視線を向けてきた。私と同じ事を考えたのだろう。“そういう事だ”と答えて頷いた。
「軍務尚書、陛下とヴァレンシュタイン少将は親密なのかな?」
シュタインホフ元帥が首を傾げた。
「妙な若者でな、陛下の御命を御救いした事が有る。卿も知っていよう」
「それは知っているが」
「他にも何かと関わりが有るようだ」
トラウンシュタイン産のバッファローの毛皮の一件、御不例の一件、ベーネミュンデ侯爵夫人の一件、そしてグリンメルスハウゼン子爵の一件……。
「グリンメルスハウゼン子爵?」
「子爵はヴァンフリートで功を上げ大将へと昇進した。あの時参謀長として子爵を補佐したのがヴァレンシュタインだった」
「なるほど、そんな事も有ったな」
シュタインホフ元帥が頷いた。グリンメルスハウゼン子爵、誰もが認める凡庸な老人だった。だが陛下の侍従武官を務めた事で陛下の御信頼は厚かった。
当然あの老人から陛下にヴァレンシュタインの事が伝えられただろう。妙な若者だ、平民であるのにどういうわけか陛下と関わりがある。それも一つではなく複数回に亘ってだ。だが陛下と特別に親密な関係を維持しているわけではない。彼の出世は縁故ではなく実力によるものだ。
ヴァレンシュタインと陛下、非常に見えにくい関係だな。表向きには無いに等しい。だが今回の御言葉を考えれば陛下もヴァレンシュタインに対して思うところが有るのかもしれない。となれば見えないだけで繋がりは深いともいえる、無視は出来ない。シュタインホフ元帥が気にするのもその所為だろう。コーヒーを飲みながら二度、三度と頷いている。
「ところでシュタインホフ元帥、次の司令長官には誰が相応しいと思われる? 時が無い、忌憚ない意見が聞きたい」
問い掛けるとシュタインホフ元帥が首を横に振った。
「……難しいな、私には思い付かぬ。軍務尚書の御考えは?」
「メルカッツ大将は如何であろう」
「さて、……一個艦隊の指揮官なら問題は無いと思う。しかしあの男に宇宙艦隊司令長官が務まろうか? 私も軍務尚書も元帥と呼ばれる地位に昇ったが宇宙艦隊司令長官には名前が上がらなかった。メルカッツも我らと同様ではないかな」
侮辱とは思わなかった。それほどまでに宇宙艦隊司令長官という職は務めるのが難しい。何百万、いや一千万以上の将兵を命令一つで死地に送るのだ、それだけの覚悟も要れば躊躇わずに命令を受け入れられるだけの信頼も必要だ。
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