彼らの黒の想い方
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徐晃殿と共に戦ってみようと決めて駆けた先、不敵に笑う彼にこのまま真っ直ぐに攻め続けるのかと尋ねて、彼はまあ見てろと楽しげに笑った。
三つの指で合図を送り、突き出された拳と共に幾多の槍が投げられる。
徐晃隊の特異戦術の一つとして有名な投槍。彼が取った手段はそんなモノだった。
――なるほど……これなら正面を兵列突撃で抑えつつ後ろにも攻撃を仕掛けられる。
徐晃隊の練度あればこそではあるが、有用性は確かだった。
指揮系統の攪乱によって強行突破する隙をこじ開けた事になる。徐晃隊ならば……出来るだろう。
「さて……やれる事はやったが、上手く行くかどうか」
しかし彼は、何も命じずにのんびりと構えていた。今押せば確実に崩せるのに……如何して何もしないんだ。
「あの……徐晃殿。強行突破しないのですか?」
「強行突破? 徐晃隊でか? なんでだ?」
「いえ、敵は少なからず動揺してますし、徐晃隊の練度ならば敵将までの道を切り拓けるのではないかと」
訝しげに眉を顰めた彼と視線が絡む。
直ぐに、ああそうか、と納得したように頷いて、彼は苦笑を零した。
「そんなことしてたら人が死に過ぎる。それに、黒麒麟が帰って来てないから、その身体に決死突撃させるわけには行かねぇな」
「しかし……それでは直ぐに敵も立て直しますからただの無駄撃ち――」
「いんや、これでいいのさ。無駄にはならん。俺と黒麒麟の身体が此処で戦ってるってのを意識させれば良かったのさ」
訳がわからない。ぼかして言う彼はいつも通り答えを教えてはくれない。
考えてみるも、やはり自分には分からなかった。
幾瞬、戦場の空気が分かり易く変化した。怯えを孕んだその空気はよく感じたから知っている。遠くに見ていた敵将の位置で、いくつもの血しぶきが宙に上がった。
仲間割れ……でも起きたのだろうか。さすがに敵将のほん近くでそんな事が起こるはず無いだろう。
呆気に取られているわたしの横で、彼が頬を吊り上げた。
「俺が此処に来たって事はだ、あいつも一緒に来てるってことなんだが?」
「……あ」
「そういうこと。戦ってるのは俺らだけじゃない。まあ、楽進殿が抑えててくれたから仕込み出来たんだけど」
気付けば早い。彼はあの時、一人で戦いに向かったわけでは無く、赤い女と二人で駆けた。
元袁家の紅揚羽と田豊の護衛をしていた張コウ隊を使って、彼は顔良だけを狙っていたのだ。真正面から攻めるでなく、黒麒麟の名を囮に使った搦め手が本当の策。
よほど相手と信頼し合っていなければ出来ない動きだ。張コウが死ぬ可能性を……彼は考えないんだろうか。
「俺とあいつの遣り方、卑怯だと思うか?」
彼が笑う。吸い込まれそうな程に昏い瞳が細められ、悪い顔だ、と
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