彼らの黒の想い方
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うして思考誘導の布石は正しく機能する。
「……ホントに追撃しないのか?」
「しない」
「神速も大剣も?」
「二人はお前が残した弱卒の制圧で忙しい」
「白馬義従も……徐晃隊もか?」
「くどいな。一騎打ちしてる間は手出しさせんよ」
一歩、月光が大きく踏み出した。早く戦えと急かすように。嘶きは静かで力強く、彼は苦笑を零しながら剣先を突き付ける。
黒の瞳に射抜かれて、猪々子は大剣を斜めに構えなおした。
チラ……と明を一寸だけ見やると、彼女は何も言わずに自分の武器を……ひょい、と後ろの兵士に投げ渡した。悪戯っぽい笑みには信頼の光。
――お前は戦うつもりが無いってか。
あくまで一騎打ちを見届けるつもりなのだ、と受け取って猪々子は秋斗に視線を送り、笑った。
「へへっ、もう考えるのもめんどくさいや。どっちみち誰が来ても、何があっても戦うつもりだったんだ」
進んでいた馬をピタリと止めた。彼女の部隊もそのまま、彼女をぐるりと囲むように居並んだ。
倣って、曹操軍も停止する。明が一人の兵士に向けて凪への指示を送り、追撃の部隊も何も来ない。提案する以上は、彼に責が発生する。軍の行動を決定するのは華琳だが、越権行為如何ではなく、この戦場は各人に判断を任せた異端の戦。失態を犯せば相応の罪過が待ち、成功すれば認められる。
彼を咎めていいのは春蘭くらい。止められるのも、春蘭だけであろう。
「いいよ、黒麒麟。あんたの提案……受けてやる。お互いに欲しいもん賭けてさ、やろうぜ?」
「……お前が勝ったら何を望む?」
「あたいが勝ったら……」
賭けの景品は叶えられる範囲の願いを一つ。考えるまでも無く、猪々子は秋斗の後ろを剣で差して示した。明に向けて、同情の眼差しを向けながら。
「斗詩を……顔良を殺さないで逃がしてくれ。あたいの、大切な人なんだよ」
友達は大切なモノを失った。自分の大切なモノはまだ失っていない。救える可能性があるのなら、猪々子はみっともなくても何にでも縋るつもりだった。
「……了解。約束は守ろう。まあ、お前が負けても顔良は殺さないかもな。曹操殿の意向次第だが、人材収集の噂、聞いてるんじゃないか?」
ほっと吐き出された息は安堵に染まる。勝っても負けても殺されない。一つでも救いがあるのなら十分だ、と。
「……あんたはどうなんだ? 勝ったらあたいに何を望む?」
当然そう聞き返す。時間を稼ぐというわけではなく、フェアな条件で戦うのなら先に求めるモノを提示すべきなのだから。
碧水晶の輝きに圧されず、
「そうさな……」
秋斗は微笑みを返した。
「俺と一緒に、徐州で死んだ徐晃隊の墓参りでも行ってくれ」
呆然と、猪々子は彼を見つめる。
幽州を
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