彼らの黒の想い方
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をこれっぽっちも分かってやれない。名前も、思い出も、何もかも思い出せない。
彼の瞳が昏く暗く濁って行く。
哀しみから、苦しみから、自分への憎悪から、目を逸らさず自分の心を受け止め……せめて演じてみせようと不敵な笑みを浮かべた。
「クク……伝えてくれてありがとよ」
「気にすんな。あたいがしたくてした事だ」
「そうかい……」
言いながら白く輝く長剣をゆっくりと上げ、猪々子に突き付ける。
「お? やるかぁ! どうせなら二人がかりでも構わないぜ?」
「いんや……一人でやろう。お前さんとは俺だけで戦わなきゃならん」
「いいねぇ、やっぱり徐晃隊の親玉だけあってちゃんと戦ってくれるんだな!」
「それが誠意ってもんだろ。あと……そうだな、賭けをしないか?」
急な提案の声に、猪々子は眉を顰めた。
「賭け?」
「ああ、賭けだ。乗ってくれるなら俺が一騎打ちしてる間、曹操軍は袁紹軍を追撃しない。負けた方が勝った方の言う事を一つ聞く。それだけだ。どうだ、おもしろそうだろ?」
悪戯好きな子供の笑みで笑い掛ける秋斗に、猪々子は少し戸惑う。
――なんか企んでるのか? あたいに利があり過ぎるんだけど……
当然、直ぐに乗る事など出来ない。追撃の時間を遅らせられるのなら願ったりであるが、曹操軍は麗羽を追いたい事くらい猪々子にも分かっていた。
「さてどうする? お前が敷いた策、捨て奸って言うんだがな……弱点もあるんだ。強弩部隊と文醜隊の混成を街道にばらまくって事は自然と本隊の護衛兵数は減る。神速と白馬義従に回り道させて追い掛けさせたら間に合うし対応のしようが無いだろ。
何より……官渡のそこかしこにある不審な秘密基地は俺が仕掛けたんだが、情報伝達の兵士を据えてあるから袁紹の現在地の把握は直ぐに出来るぞ? 秘密基地のある道を出来るだけ避けて経路を選んだようだけど……バレるような場所だけに秘密基地作るわけねぇだろ。森の中、林の中、いたる所に仕掛けてあるから、隠れても見つかるんじゃねぇかなぁ」
彼の説明に猪々子の顔が青ざめた。
使う策の弱点を熟知されているとは思わなかったのだ。彼が使っていたというのに、である。
自分達が二度辛酸を舐めさせられたからこそ意識から有用な策なのだと無意識の内に思い込んで自分達も逃げられると判断を下した。もし、斗詩が居たならば警戒を置けただろうが……猪々子だけではそこまで頭は回らない。
秘密基地は彼のお遊び。不審なモノがあるなら警戒せずにはいられない。抜かりなく見張りの兵士を置いている為に、袁紹軍が警戒を置くのは正しい。
元より官渡は、得物を逃がすつもりがない蜘蛛の巣に仕上げた戦場。半端な逃げなど、曹操軍が許すわけがない。
逃げるには、彼の提案を聞くしかない……そ
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