【閑話】理屈をこえた 月下香
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チューベローズ・月下香
?危険な楽しみ?
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【閑話】理屈をこえた 月下香
山の天気は変わりやすい
小雨がパラパラと、降っては止み降っては止み・・・
男が歩みを進めるたびに、抜かるんだ地面が凍てついた北国の地へと変貌する
徐に太陽を仰いで、男は呟いた
「・・・一日もありゃ、着けるか・・・」
男には旅の道連れなどおらず、気ままな一人旅だと見受けられる
しかし、たしかに男は誰かに確認をとるかのように呟いた
態々傍らに顔を向けて
半ば無意識の言動を恥じるように口元を覆った男
彼には旅の道連れなど、もういないというのに
その死を男は確認したというのに、どうしても縋りついてしまうのだ
起こり得ぬ奇跡とやらに
祈った所で死者は蘇らない
足早に進む男の心中は穏やかではなく、苛立ちを眉間に表している
しばらく無言で突き進むうちに険しい山道が終わり、開けた場所に出た
その場所からは町を確認できた
「・・・雪、いや・・・春の、国か」
いつの間にか小雨から雪に変わっていた
穏やかに降り続ける雪から身を守るように、しっかりと外套を整え町を目指す
雪に僅かな思い出と、想いを馳せて
男はただ歩を進めた
◆
人々の賑わいは寒さを跳ね除け、雪すら溶かす熱さを持って男を迎え入れる
宿を探し歩く男は物珍しげに周囲を眺め、時折商店を冷やかす
ふと鮮やかな色彩が視界に入り眺める
少々前に話題となった映画、風雲姫のグッズを取り扱う商店だった
手にしたパンフレットには、主演女優の姿が華々しく描かれている
「・・・確か、アイツ見に行っていたな・・・」
脳裏に浮かぶのは小さな体躯の弟子
男の持つ技術、無音殺人術とそれに必要な基礎を授けた童子
何故か思い出の中の弟子は、妙に腹立たしく思える誇らしげな顔をしていた
その顔がドヤ顔と呼ばれることを男は知らなかった
弟子とその友人たちが休暇に観に行ってきたと、男の友人であるペイン長門から聞かされた覚えがある
映画などの俗事に興味のない人間だと思っていたため、男は珍しく自分から感想を聞き出した
??・・・どうだった???
??・・・疲れた??
たった、一言だった
言葉に違わず疲れきった顔をしていたため、それ以上深く問いはしなかった
パンフレットを流し読み、チケットを購入する
たまには悪くない
口布で覆われた、その口元が緩んでいることを知る者はいなかった
翌日分のチケットを懐に仕舞い、宿探しを再開
ほんの少しだけ
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