第4部 誓約の水精霊
第1章 聖女
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亡き先代国王を偲んでのことだろう。
だが、それでも、即位にはためらいがあるのである。
アンリエッタは溜息をついた。
それから……、左薬指に嵌めた風のルビーを見つめた。
ウルキオラがアルビオンから持ち帰った、ウェールズの形見の品である。
ウェールズがもし生きていたら、今の私をどう思うのだろう。
権力の高みに上り詰めることを義務づけられてしまった私を……。
そんな風に考え始めると、偉大なる勝利も戴冠の華やかさも、アンリエッタの心を明るくはしてくれないのだった。
アンリエッタはぼんやりと手元の羊皮紙を見つめた。
先日、アンリエッタの元に届いた報告書である。
それを記したのは、捕虜たちの尋問にあたった一衛士である。
ウルキオラのゼロ戦に撃墜された竜騎士と、ウルキオラの虚閃によって撃墜された『レキシントン』を除く十二隻の艦隊乗組員の話が書いてあった。
敏捷に飛び回り強力な魔法攻撃を用いて、竜騎士を次々と撃墜し、膨大な魔力を帯びた緑色の閃光で戦艦を落したとアルビオンの竜騎士は語ったらしい。
そして、それをやってのけたのは、アンリエッタと旧友の間柄であるラ・ヴァリエール嬢の使い魔の男であったということ。
あの、レキシントン号を吹き飛ばした光の玉も、その男が放ったものではないかと示唆していた。
しかし、ことがことだけに、衛士は直接の接触をしてよいものかどうか迷ったらしい。
報告書にはアンリエッタの裁可を待つかたちで締められていた。
自分に勝利をもたらした、あの緑色の閃光。
そして、太陽が現れたかのような、眩い光。
この二つを思い出すと、胸が熱くなる。
「あなたなのですか?ウルキオラさん」
アンリエッタは小さく呟いた。
さて一方、こちらは魔法学院。
あまり人が来ないヴェストリの広場で、陽光香る椅子に腰かけ、ウルキオラは手に持った包みを開いた。
「これは、マフラー、か?」
向かいに座ったシエスタが、ぽっと頬を染めた。
「あのね?ほら、あの飛行機でしたっけ?あれに乗るとき、寒そうでしょ?」
時間は午後の三時過ぎ。
シエスタはてくてくとウルキオラの元に来て、プレゼントですっと言ってこれを渡したのだ。
そのプレゼントはマフラーであった。
「別に、寒いと感じたことはない」
ウルキオラは言った。
シエスタは少し落ち込んでいるようだ。
普通ならば寒いはずなのだが、何分、ウルキオラは人間ではない。
ゼロ戦の風防を開けているだけでは、寒いとは感じないのである。
ウルキオラは、白地に、黒い毛糸で大きい文字が書かれているのに気付いた。
アルファベットに似た、ハルケギニア
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