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パパは突然こんな事を言った。たしか家族ですき焼きをつつき、片付けられたテーブルの上に置かれた灰皿に、灰をトントンと落としていた時じゃないだろうか。私はといえば、ただ夢中でテレビを見ながら馬鹿みたいに笑っていただけだと思う。
「タバコはパパ自身だ」
中学生の頃の私だったら、無視を決め込んでいたに違いない。でもそれから少し大人になった私は、そんなパパを哀れだと思うようになっていた。決して可愛らしいとは思えない、ここで無視をしてしまったら、可哀想だと思うくらいで。
「バカじゃないの」
だから、私は冷たくそう言った。一々パパの方なんか向かずに、私はテレビに視線を向けたままで。
パパが突然変な事を言い出すのは、おそらく彼の性質なのだろうと思う。私は昔からずっと父の意味不明な言葉を聞かされているから、既に慣れてしまったし、飽き飽きもしていた。たぶん、まだずっと小さな頃はそんな事を言うパパの相手をしていたのかもしれないけれど、もちろんそんな事私は覚えていない。
冷たく言い放ったし、パパの方に顔も向けていないけど、何か言ってあげるだけのそれだけで、その時の私はそれが父に対する優しさなのだと思っていた。
「タバコがないと生きていけない」
私の冷たい対応には何の反応も示さず、続けてそう言った。
だろうね。と心の中でだけ言って、今度は口に出さなかった。しつこいと思ったし、これ以上パパの無駄な会話に付き合うのが面倒にも感じたからだ。
私はテレビに出ているお笑い芸人のボケに大きな声で笑っていた。笑いながらもさっきパパが言った「タバコはパパ自身だ」という言葉がねっとりとした煩わしさを備え、私の頭の中に居座っていた。
この人からタバコを取ったらどうなるのだろう。ふとそんな事を思った。
たぶん、パパにとってタバコは、私以上に人生の一部なのだろう。私以上に、身近で気が置けない相手なのかもしれない。私は頭の中で、自分とタバコを天秤に乗せてみて、パパにとってどちらが重要になるのだろうと考えてみた。でも、結局それはすぐにやめてしまった。どちらが出ても、私はその答えにうまく満足できそうにないような気がしていたからだと思う。
そういえば、昔なんの拍子か、私はママがこう言っていたのを思い出す。「昔は吸ってなかったのよ、タバコ」
「やめるか」
私たち家族三人で食事をしているところだった。スーパーで買ってきた刺身を醤油につけて、ご飯にのせようとした正にその時だった。早くからビールを飲んでいたパパは、皆で食事を始める時には、既に顔が赤らんでいる。
「何を?」
私は刺身を白米の上にのせ、真っ白なご飯と一緒に刺身を頬張った。一口食べて、スーパーの刺身の味がする、と思った。
「タバコ」
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