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パパ、タバコ。
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パパがそう言った瞬間に、私の持っていた箸が一瞬だけ止まった。そして、少し動揺した自分もいた。

 でも私はすぐに思い出す。この人はいつだって意味不明な事を言っていたし、てきとーだったし、嘘付きだった。

 無理に決まってる。という意味合いを込めて

「やってみれば」

と心を全く込めずに言った。心を込めていない事が相手にも分かるような言い方で。

 ただ、少ししてから私はやっとそれに気付いた。茶碗の白米がすっかりなくなった頃だと思う。

 パパが、今まで一度でもタバコをやめるなんて言った事あっただろうか?タバコが大好きで大好きでしょうがない人だから、死ぬまで吸い続けると私は思い込んでいた。

 「最後の一本」

と大きな声で言ってから、パパはその最後の一本を吸った。リビングで退屈そうな煙を私はぼんやりと眺めていた。

 タバコをやめるなんて初めて聞いたから、もしかしたら本当にやめるのかもしれない。今となっては、別にどちらでも構わないと思うけど、体の事を考えれば、吸わないに越した事はないのだ。「そうか、これでこの煙も見納めか」そう心の中で呟きながら煙を眺めていると、少しだけ、ほんの少しだけ寂しささえ感じた。

 次の朝、私は大きな失望の念と共に目を覚ました。それは部屋に流れてくるタバコの匂いのせいだ。もちろん匂いが嫌だった訳じゃないし、たぶん、結局タバコを吸っている父への失望でもないと思う。一瞬でも、パパがタバコをやめるのかもしれないと思った事、そして偽りの最後の一本からゆらゆらと立つ煙を見て少し寂しさを感じていた自分に失望していた。

「おはよ」

リビングに行くと、いつもと全く変わらない風貌の”タバコを吸っているパパ”がいた。全ていつも通りだった。

 何も言う気にもならなかったし、ママも別にパパに対して何も言っていないようだったので、私もいつも通り目の前でタバコを吸うパパに何も言わなかった。言わなかったけど心の中ではとても大きな声で叫んでいた。
”やっぱりパパは、意味不明で、てきとーで、嘘付きなんだ!!”

 私はそうやって心の中で何度も叫んで、自分への失望の念をゆっくり許してやる事にした。

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