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[2]次話
私の思い出の中に描かれるパパは、いっつもタバコを吸っていて、太い指に挟まれたフィルターの茶色いタバコがゆらゆらと退屈そうに煙を吐き出している。煙は一度パパに吸われ、やがてその口からまた退屈そうに洩れ出していた。
そのせいか私は、男の人は皆タバコを吸っているものだと思っていた。
もうずっと昔の話。
今だったら、もちろん皆が吸っていない事くらいわかるんだけど。でも、その時は大真面目にそう思っていたんだ。
今からずっとずっと前......。パパがタバコという得体の知れないものを吸っているという認識をした頃だったと思う。
私はパパに
「どうしてタバコを吸っているの?」
と聞いた。パパは口に含んだ煙を口から勢いよく吐き出してから言った。
「大人になったら皆吸うんだよ」
私はパパの言ったその言葉を素直に受け入れる事が出来なかった。それはなんでだろう、そう考えている内にママは”タバコ”というものを吸っていない事に気付いた。だから私は言った。
「ママは吸ってないよ」
「ママは大人じゃないんだ」
パパは嘘つきだった。それでもその嘘に気付くのはもう少し後の話で、子供だった私はパパの言ったその言葉を鵜呑みにした。ずっとママは私のママで、”大人”って事をどういう人の事を言うのかさえよく分かっていなかったけど、私の中でママは、それまで”大人”として認識されていた。
でもパパのその言葉を聞いてから、しばらくの間ママは私にとって子供だった。子供だったからといって、何がどう変わる訳ではない、ただ私がママの事を”子供”だと思っていただけで、普段過ごす生活での役割は何一つ変わらない。
しいて言うなら、ママは”子供”のくせに料理が上手だった。
[2]次話
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