変わらない黒
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馬の群れがまるで一つの生き物のように蠢いていた。
彼らの跨る一頭一頭は手塩を掛けて育てられた白き証明。ただ彼女と共に敵を退ける為に、どれだけ長い時を馬の上で過ごしてきたのか……もはや彼らでさえ覚えていない。
異民族に蹂躙される民を見てきた。理不尽に踏み荒らされる大地を見てきた。その度に駆けつけて追い返し……しかして守っても守っても、イナゴのように敵はいつでも愛しき大地に寄ってくる。
年々刻々、研鑽されてきた外敵への対策はあったものの、彼女が彼らの主として立った時は比べるまでも無く段違い。それほど、彼女の守りの信念は気高く強く、彼らに戦い続ける勇気と希望を与え続けた。
彼女が失われた時の絶望は彼らにしか測り得ない。守れと言われて居残ったのは、只々彼女の想いに報いる為。
あの歌が頭から離れない。どれだけ歌っても守っても彼女は帰って来ない。
今はもう、彼らはその約束を違えてしまった。
欲しい。求めて止まない。心の底から、彼らは主の帰還を願っている。
誇り高く民を守り抜き、自分達の暮らす家を守り続けた白馬長史が……彼らには必要だった。
奪ったのは誰だ? 荒らしたのは誰だ? 泣かせたのは……誰だ?
もはや留まる事を知らない怨嗟の渦を彼らは抑えもせずに身を任せる。
敵の怯えは見て取れる。腰が引けて対応さえままならない。逃げ出す背中が幾多も見えた。
――だが……それがどうした。
憎悪の感情は溢れて止まらない。敵を蹂躙する度に、昏い感情が湧いて出て渇いて仕方なかった。
一人の兵士は、逃げる背中を追い掛けて槍で貫いた。今まで感じた事の無い下卑た高揚感と、心の中を風が吹き抜けたような虚脱感。
二つが鬩ぎ合い、混ざり合う感情は頭を冷やしていくも……“自分達のこの姿を主が見たらどう思うか”などとは考えられなかった。
銅鑼が鳴る度に突撃を繰り返す。敵が対応しようと陣形を組めば離れて矢で射崩す。そうして、彼らは先端を蹂躙していった。
そんな中、彼らの他にもう一つ馬を駆っている部隊が居た。
誰かが謳うその部隊の名は……神速。嗚呼、と彼らにはまた悲哀が込み上げる。
あのシ水関の戦いで、彼ら白馬義従は神速と戦った、それも完全なカタチで。
自身の主と白馬の片腕が居る最高の状態であったのに拮抗していたその部隊の精強さは知っている。
――何故に彼らは御旗が居るのに……我らには率いる彼女が居ない? あの方が居るだけで、我らは神速に勝るとも劣らない姿と成れる。お前らが我らの主を、我らの戦う意味を奪ったのだ。
共に戦うからこそ、轟々と燃える怨嗟の心がより一層深く燃え上がる。
勇敢にして美しい他の騎馬隊の突撃が目に入る度に、自分達との差異が心を掻き乱す。
哀しい、虚しい、苦しい、もどか
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