変わらない黒
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と目が合う。昏い暗い黒の瞳は濁ったまま、呆れたように苦笑を一つ。
口の動きが良く見えた。一寸引き裂いた後に彼が……来い、と。手招きと共に。
ゆっくりと咥えた笛が、また高らかに綺麗な音を鳴らす。二度、三度と繰り返される音色は、まるで誰かを呼んでいるかのよう。
――自分は……何が出来る? あの人の隣で戦えば分かるだろうか。
将と軍師に任せきられた自由な戦場。乱戦と同じく、此処で判別し戦を捻じ曲げるのは十面埋伏では正しい。情報伝達を待って悠長に構える方が勿体ない。
だから凪はせめて少しでも学ぼうと、副隊長に指示を一つ。
「部隊の指揮を全て任せていいか?」
「お、俺にですか!?」
いきなりの提案に素っ頓狂な声を上げた男は、目を真ん丸にして凪を見つめた。
鋭い眼光に射抜かれて、グッと生唾を呑み込む。
「いや、言い方が悪かった。
……代わりにやってくれ。わたしが一騎打ちしている時と同じでいい」
有無を言わさぬ厳しい言葉。まだ日が浅い副隊長ではあっても、相応の責任というモノは持っていたからか、コクリと頷く。
「防衛主体で構わない。部隊の被害を減らすように戦い、付かず離れずの距離を保って戦線を維持。于禁に伝令を送ってもいい、郭嘉様に指示を仰いでもいい……が、出来る限り自分達だけでやってみろ」
「……御意に」
これでいい。大まかな指示さえ与えておけば、きっとこいつらは遣り切るだろうときっぱりと言いきれる。
自分が一から育てた兵士だ。彼らの癖も戦い方も誰よりも熟知している。普段から規律に厳しい凪であれど、自分のしたい事を優先した事もあって、申し訳なさげに目礼を一つ。
「すまない。徐晃殿と戦ってくる。強くなりたいんだ、もっと……もっと強く」
――多くの人を、守れるように。
矛盾した事柄なれどもう既に飲み込んでいる。
戦をした以上は、誰かの為に戦っている以上は、人を殺すし不幸をばらまく。
それでも……自分が強くなる事で手の届く範囲が救えるなら……それが凪の選んだ人生の道。後は屍を踏み越えて進んで行くだけである。
「……いつも自分に厳しいあなたにしては珍しい。けど……いいっすね。強くなりたいってのは俺達も同じですから」
珍しく、副隊長は砕けた口調で話し始めた。
呆気に取られること幾瞬。ニッと笑った男は、拳を包んで礼を返した。
「じゃあ俺は副隊長としてこう言いましょうか。雑事は俺に任せてください。いってらっしゃませ、俺らの将、楽進様」
じわり、と彼女の心にナニカが湧き出した。
燃えるような熱さと、震える切なさ。自分達の将……そう言われた事が彼女の心を歓喜に導く。
彼らも強くなりたい。自分も強くなりたい。
嗚呼、こいつらは同じだ。自分
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