変わらない黒
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不思議そうな声で尋ねかける白馬義従の一言に、私の思考は少しだけ晴れ渡った。
きっと“彼ら”が居たら怒られる。あの絶望の戦場でも怒られた。
『今はその姿はいらねぇ』
彼と私の幸せを願ってくれた“彼ら”の声が耳に響いた気がした。
そうだ。私は戦の中では……鳳凰で居なければ。グイ、と袖で目を拭った。笑みなど浮かべなくていい。
私はただ、地獄を作るために指示を出し続けるだけなのだから。
より冷たく、より残酷に。
「……大丈夫です。では此れより他部隊の援護に移ります。この場は張コウ隊と“黒麒麟”に任せて構いません。順繰りに戦場を巡回しつつ騎射で数を減らす事に重点を置いてください。隙が出来たら、また突撃します」
御意、と目を伏せての一言。
この場を離れる前に、一度だけ黒の部隊の方を眺めてみる。
もう視界には、彼の姿は映らなかった。
締め付けられる胸の痛みが大きくて、また泣きそうになったけどどうにか堪えられた。
――あなたは……どうしてそこまでして戦うんですか……。
この戦が終わったら、聞いてみよう。戦場を駆けずとも、求められる姿があるはずなのだから。
一回だけ、今の彼と話してみよう。
私の気持ちは伝えなくていい。
胸の内に秘めたまま……ただあなたの幸せだけを、願っています。
†
曹操軍の主力部隊は大きく分けて四つ。
春蘭と秋蘭、霞の率いる三つの部隊。そして華琳を常に守る親衛隊。兵達はこの四つに厳しい訓練の果てに割り振られるのだが、それらに属さない者達は基本的に未熟な兵士であると認識が持たれている。
凪、沙和の率いるモノ達は、確かに兵になってから日が浅いモノ達が多く、且つ練度もそれほど高くない。行く行くは街の警備兵にでもなれればいい、そう考えている輩もいるだろう。
余談ではあるが、真桜の受け持つ部隊は特殊な工作兵なので元から主戦力として数えられることは無かったりする。
そんな兵士達の認識であるが、今回の戦は少し違う。
醜い感情を丸出しにして、自分が生き残る為の戦場を経験し、今回は敵が生き残ろうと必死になる勝ち戦を経験している。
決戦に置いて、凪は一つ決めている事があった。
延津での雪辱を晴らすと言えば聞こえはよくない。敵が自分から兵士達を追い詰めたにも関わらず、凪達の力量不足で取り逃がしてしまった一人の将、その女ともう一度相対しようと考えている。
戦功の取り合いは戦の華だ。
自分から求めるモノでは無いとお綺麗な思考の持ち主たちは言うが、戦人としては当たり前の欲。手柄を立てるというのは求めてこそ意味や価値を持つ。
別に凪は出世したいわけでは無い。名誉が欲しいわけでも無い。名を広めたいわけでも無い。
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