変わらない黒
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金色の鎧に巻かれた黒の布。袁家に於いて最強の部隊であり、彼らが一番頼りにしていたはずの兵士達。
紅揚羽が育てた張コウ隊は飢えていた。烏巣の戦で兵数を下げながらもこの戦いに出てくる程に。より大きな恐怖を与える為に残虐な行為を平然と行って。
張コウ隊が戦った陣の兵は全て殺したというのに、それでも尚喰い足りないと槍を振るう。
断末魔を聞いて引き裂かれる笑みは残忍にして渇いていた。白馬義従も、似たような顔で人を殺している。
これが戦。本当の戦。私がまだ経験していなかった、怨嗟の戦。これから進んで行く上で必ず向けられる、醜悪な戦。
彼が作る残酷で冷たい地獄とはかけ離れた、感情の熱に溢れて止まらない地獄。
未だに戦況を持たせられている場所は、二つ。
文醜、顔良の二枚看板が指揮する所のみ。それもこちらの軍の対応の為に分断されているから、どちらかを打ち崩せばあとは時間と共に戦は収束するだろう。
私の目的の為には白馬義従を敵大将の所に向かわせてはならない。勢いのまま、感情のまま殺してしまっては全てが台無しだ。
――袁本初は……相応の殺され方をしなければならないのだから。
チラ、と後ろの兵が持っている斧を見やる。
鈍い光を放つその武器は、彼と仲が良かった少女のモノ。白馬義従にとって大切な指標にして、怨嗟と悲哀の象徴と言える。
これを使う時はまだ。彼に……使って貰わないと。
幾分幾刻。
戦場で聞きなれた愛しい音が鳴った。袁家にとっての絶望の合図で、私の心を安らげてくれる優しい音。
彼らが来たのだ。彼の為に戦い続ける彼らが。
もう袁紹軍は逃げ出したくて仕方ないだろう。絶望を知らせる黒麒麟の嘶きは、袁家にとって最悪の戦場が出来上がる合図なのだから。
信頼から、私は彼らの姿を見なかった。白馬義従に指示を出し続け、敵を少しでも減らしていくのみに意識を集中する。
雄叫びも、鼓舞する声も、何も上げずに突撃する彼らが視界の端に映った。
一度目は不振に眉を顰めるだけで済んだ。
二度目にちらついて……思わずそちらを凝視する。そこで、私の思考が全て……真っ白になった。
――ああ……
心が震える。遠くに見える彼らの中に、たった一つ異なるなモノを見つけたから。
大きな黒馬に跨りて、先頭を駆けて兵の群れを切り拓く……見慣れた、懐かしい姿。
――どうして……
無意識の内に涙が零れる。白く輝く剣閃が、日輪の光を反射しながら紅の華を咲かせていく。
追随する兵士の一人ひとりの連携は、そのモノを少しでも楽にする為に身につけた、その者に身体とまで言わしめた最上の攻撃手段。
――どうして、あなたが……
幾多の涙は、まるで心の内から零れた感情を表すかのよう。
会い
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