変わらない黒
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っす! 憎い? 憎いよね? だったらさ、殺したいなら……掛かって来いよ。全員殺してあげるから」
遊んでいるような声はいつも通り。人の命を喰らっている時の、ヒトゴロシを楽しんでいる時の彼女の声だった。
たかだか百以下の兵数が明と共に戦っていた。夕と一緒に居たはずの張コウ隊の精兵で、彼らは自分の命を度外視して此処にいるのだと、直ぐに分かる。
もう立て直すことは誰が見ても困難だ。外だけでもいっぱいいっぱいなのに、中で掻き乱されてはどうしようも無い。
「ねぇー、斗詩ぃ? ちょーっとあたしとお話しよっかぁ♪」
斬り結びながら嗤う彼女に、斗詩は震えた。
ぺたり……と地面に膝をつく。逃げられない。例えどれだけ兵士が守ってくれようとも。
戦意無きその姿に、兵士達は衝撃を受ける。どれだけ絶望的でも、弱気ながら立っていた彼女が遂に折れてしまった。
我らの将を守らなければと思うから、守ろうとするから、列が乱れた隙に……彼らは無理矢理に突出する張コウ隊の数十名に突き殺されていった。
ひらり、と舞うような足取りで近づいてきた明が鉤爪を振るってさらに道が開ける。
赤い舌がペロリと唇を舐めた。此れから何を食べようとしているのか、斗詩には分からない。
もう立ち向かう勇気さえ、折れてしまった。親友に心の中で助けてと願うことも出来なかった。明が敵として前に居るだけで、斗詩の心は諦観に支配されていた。
一歩、二歩……兵士の攻撃をひらひらと躱しつつ殺しながら近づいてくる明を見続ける。吹き出た鮮血が彼女の紅い髪を真っ赤に染め上げ、妖艶さを際立たせていた。
漸く肉薄した明は、斗詩の後ろに回って鉤爪を首に押し当てた。
「今のあたしは曹操軍♪ どういうことか、分かるよね?」
「……ごめん……ごめん、ちょこちゃん。私の、せいで」
慄き震える唇からやっと出た言の葉は彼女への懺悔。直ぐに話していたら、もっとうまく出来ただろうに。彼女も、きっと裏切らなかっただろうに、と。
興味なさげに薄く笑みを浮かべた口から、ゆっくりと優しい囁きが紡がれる。
「……言いたい事はそんだけ? 気にしないでいいよ。夕の為にしてくれたんだから、さ。その代わりにー……後でたーっくさんお礼してあげる♪」
――文ちゃん、ごめん。私は……もう助からないみたい。だから……麗羽様を連れて、逃げて……
涙が一筋、頬を伝う。抵抗せず、彼女は猪々子の身を最後に案じた。
――私のせいだ。私のせいで……台無しになった。
後悔と自責の刃が心を引き裂いて行く中、斗詩の意識は暗闇に堕ちて行った。
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