変わらない黒
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え、胸の前に掲げていた大槌が金属音を幾重も立てた。
見れば、自分達に来たのは槍の群れ。正確な投槍は徐晃隊の十八番。彼は後続の部隊の装備を斗詩に向けて投げさせたのだ。
敵指揮官の足止めと指揮封じ。捨て奸に使う攻撃を平然と使うのもまた彼のやり口。使えると判断したなら即断で行動を起こすのも、黒麒麟と変わらない。
直ぐに起き上がった斗詩は……やはりダメだと思い至る。
怖かった。恐ろしかった。そして何より……死ななくてよかった。
そんな想いが胸を支配する。震える脚も手も、もう抑え付けられない。
――死にたくない。まだ皆と笑い合ってたい。もっと……もっと生きていたい。
兵士により近しい心を持つ彼女は希う。生物として一番の本能。生存欲求が心を満たし、戦事と並列思考を積み上げながらどうすればいいかを組み立て始めた。
――生き抜くには、麗羽様と文ちゃんと生き残るには……どうすればいい……考えろ、考えろ……。でも、勝てなかったら……あ……。
そこで思い至る。
ただ生きる為ならば、別に勝たなくても良いのだと。
それは一番やってはいけない事だ。戦ってきた兵士達の想いを全て無駄にする事だ。そして赤の少女を最も怒らせる行いで、誇りを優先する曹操軍に捕えられれば生き残れないと断言出来る方法。分かっているが、彼女は友達と一緒に生きたかった。
――……生きる為なら……逃げればいい。
赤と黒の少女が出来なかった選択肢。人生を賭けての逃亡生活になる。名さえも捨てなければならないだろう。
心を繋がずに、誇りなど投げ捨てて、生にしがみ付けばいい。
生きてさえいれば、わずかながらも幸せになれる……そう信じてもいい。
ただ……そうして彼女が思考を積んでいる間に……近づく影が一つ。
金色の鎧、居並ぶ兵士よりも小柄な体躯。赤い髪が、兜の隙間で揺れていた。
斗詩の元には前線で戦っていた兵士が多く集まり再編成を繰り返していた。
それが力となって此処まで持っていたのだから称賛されてしかるべき……が、彼女は裏切りがあった場合、敵がどういった行動を起こせるかを考えていなかった。
「な、なんであんたがっ……ぐぁっ」
「え……?」
少し遠くで兵士の悲鳴が聴こえた。後背は自分達の味方だけのはずで、そんな悲鳴が聞こえるはずはないのに。
血霧が舞う。肉が弾け飛ぶ。徐々に近づいてくるその音が、彼女の心を再び深く昏い絶望に落として行った。
前には黒麒麟、後ろには……
「ひひっ、あははっ! あの人にばっかり気ぃ取られてちゃダメじゃん?」
紅揚羽が、其処にいた。
誰かが叫んだ。裏切り者、と。すぐさまにへらと笑った彼女に切り裂かれて命を散らす。
「そのとーりっ♪ 裏切りモノの張コウでー
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