変わらない黒
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しいのだ。けれども、黒麒麟はその真逆を突く。
精強だからこそ、より多くを救う為に使い捨てる。それが徐晃隊の異常性の大きな部分。
敵は徐晃隊のその異常性に恐怖して、徐晃隊すら満足に減らせなくなる。
なるほど似ている、と斗詩は思う。紅揚羽の張コウ隊とやり方がほぼ同じなのだ。
心理を操り人を惑わす。厄介なのは、張コウ隊のような悪辣さでは無く、段違いの練度から変幻自在に動きつつカタチを保てる部隊指揮。
――決戦をするとは言ったけど、これじゃもうただの烏合の衆。どうすればいいんだろう。
戦の経験を積んできたから分かる。此れは既に負け戦だ。裏切りが行われた時点で逃げ帰る事に全力を注ぐべきだったのだ。
しかし……袁家には帰れない。帰りたくなど、無かった。
麗羽が殺される。家に殺される。
子は親を生めない。親は子を産める。子の命は親のモノで、どう扱われようが文句は言えない……その対象が、袁家当主であったとしても。
上流階級では当たり前の出来事。親が子を売り払うなど、そこらの貧しい民でもしている事ではあるが。
家とはそれほどに重いモノだ。大陸でまかり通ってきたモノで、世界中にありふれている常識でもある。
だから、斗詩は麗羽と共に家に帰るよりも戦う事を是とした。
勝つ事だけが唯一、麗羽に残された生きる道だった。
――糧食もほとんどない。兵士達の士気はどん底。また誰が裏切るかも分からない。こんなの……もう……
戦い続ける意味など無いと、弱気な自分がまた浮き上がる。僅かにでも勝機があると考えていた事こそ甘い認識ではないか、と。
絶望の戦場で一人泣くわけにもいかない。心が折れそうでも彼女は将。兵士達に不安を見せない為に胸を張り続けなければならない。
指揮の負担から、そして見る間に減って行く兵数から……彼女は甚大な汗を流していた。頭脳をフル回転させて戦場を持たせているのだ、疲労は相当に高まっている。
ちらちらと映る影が気になった。黒の衣服に煌く剣閃が、今この場では何より恐ろしい。
「……あ」
声を漏らしたのは驚愕からであった。
思わず見てしまったその方向で、黒の男が口を引き裂く。隣では見た事のある灰色の将が何かを話していた。
彼が緩く腕を上げた。何をするのかと身構える。親指、人差し指、中指……三つ立てた指がゆっくりと折られていく。
分からないモノは恐ろしい。彼の引き裂いた笑みが、紅揚羽と被って見えてさらに恐ろしかった。
ゾワリ……と本能的な恐怖から身の毛がよだった。このまま此処に居てはまずい、と。
彼の握った拳が突き出され、彼女は自分の勘が正しかったと判断する間も無く、馬の上から形振り構わず転がり落ちた。
大きな馬の嘶きが聴こえ、次に兵士達の断末魔が聴こ
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