第18話:疲れた心に癒しを(前編)
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ふふっ、と響は笑い始める。
小学校の頃の生活は、理性や論理とは無縁のものが数多く存在していて精神的に耐え切れず、奇行に走って耐えることに精一杯だったからよく覚えていなかった。それでも、響に勉強を教えたことは覚えていた。何処で言ったか覚えてはいないが、確かに響がさきほど口にしたようなことを口走った気がする。
こうした思い出話に花を咲かせながら、廊下や階段を抜けていくと目の前に職員室が見え始めた。
「そういえば、響」
「うん、何かしら」
俺は、前々から思っていたことを訊こうと口を開いた。
「何でお前、委員長なんて引き受けたんだ? 今年はおそらく色々忙しいはずなのに」
「そうね、確かに忙しいわ」
「だったら」
「でも、委員長も今の忙しさも今だから体験できることだと思う。忙しい、辛い、楽しい、嬉しい、みんな今だからこそ得られる感情や経験だと思うの。だから面倒臭いと言ってやろうとしなければ、こういった事を経験できないで、大人になって、あの時こうすればよかったと後悔するかもしれない。だから、いまやって失敗したなと早めに後悔した方が大人になってから笑い話の一つとなって、人生にとってプラスになると考えているのよ……なんてね」
響の語りを聞いて、俺は響きの中に「若さ」を見たような気がした。勿論、肉体的なものを指すのではなく、精神的な対象だ。まだ先の長い無数の選択肢を用意してある人生に胸を躍らせて努力をする姿勢や、無知で漫然と生きていく姿勢。挫折や失望の経験を積み過ぎてしまった俺の中には既に枯れてしまったかもしれない光みたいなものを見た、という気がした。
「本当にたいしたヤツだ。響はもう大人になった時の自分を考えているのか」
俺は、妙に優しい口調で響にそう言った。自分でもこんなに優しい気持ちになっているだなんて思ってもおらず、俺は一人驚いていた。強烈な若さの眩さを見て、ついこのような気持ちになったのかは分からない。
「まぁ、それだけじゃないんだけど」
「他にも理由があるのか?」
響は、急に軽い調子を変えて言葉を続けた。
「私が委員長になれば、拓君が生活態度を改めるようになると思ったのよ。その調子に、拓君は授業をサボらなくなったでしょう」
「……冗談?」
「冗談、と言ったら拓君は喜んでくれるかしら」
「出来の悪い冗談だと言ってやるよ」
「はい、お疲れ様。塚原さんも。遠野君、次からは授業中に眠らないよう、気をつけるのよ」
職員室の机で次の授業の準備をしているカワカミ先生が、俺たちが運んできたノートの山をぽんぽんと軽く手で叩きながら、俺たちに言っ
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