第18話:疲れた心に癒しを(前編)
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は丸められた教科書が握られており、それで俺の頭を叩いたようだ。
「遠野君、あなたの番よ。教科書開いて読みなさい」
カワカミ先生は、丸めた教科書を元の形に直しながら教壇に戻り、俺のほうを向いて言った。読めと言われても、どの箇所から読めばいいか分からない俺は、とりあえず椅子から腰を上げて教科書を開いてページを探すフリをした。当然、そんな事をしても読み始める文が何処からなのか分かるはずもない。こういう時は、一応立っておいて後から分からないといった方が相手に与える心象は少しはマシになるのだ。大人になって、この態度は最悪ではあるが。
「18ページの3行目の途中の文から」
と、隣からボソッと助け舟が渡された。18ページを開いて、3行目の文章を目で追い読み始めの文章を探し当てた俺は、助け舟の船頭である響に心の中で感謝した。
「『小さな僕が大好きだった本は、いまも本棚の中に大切に置かれていた。背表紙は……』」
そのまま、俺は30秒くらい文章を読み続けた。作者もタイトルも見たことがないが、どうやら子どものころに大好きだった本を10年過ぎて見つけたときの情景を文章にした箇所であるようだ。常用漢字以上の言葉は使われていなかったので特に詰まることなく、朗読は進んだ。
「はい、遠野君ありがとう。今後は寝ないように気をつけて」
「ふぁい」と、欠伸と返事が被って生返事となってしまった。
「生返事しないの!」
「はい!」
教室中から笑いが起き、俺は苦笑いを浮かべながら席に着いた。隣を見ると、響が笑っていた。何だか照れくさくなって、俺は頭を掻いてごまかした。
それから何度もコックリコックリ舟をこいだりしていたが無事に50分を乗り切り、待望の休み時間が訪れた。
「ふわぁ……」
「こら拓君、背中を丸めないの」
両手一杯にクラス全員分のノートの山を抱えて生欠伸する俺を、俺が持ちきれなかった分のノートを抱えた響が穏やかな口調で嗜めた。カワカミ先生の罰で俺は、ほぼ全員分のノートを職員室への運搬を命じられていた。
「欠伸をするなと言われてもな。陽が高くなればこんなに暖かくてポカポカしてるんだぞ? 寝ないという方が春と言う季節様に失礼だ」
「そうね。私も欠伸のひとつやふたつは、出てしまいそうだもの」
「口だけとしか思えないな」
「そう? 負荷の大きな練習だったから、集中力の維持は大変だったわ」
と、肩を少しだけ竦めて、響はそう言った。
「それに授業でポイントを掴もうと集中すれば、眠くなんてならない。これを教えてくれたのは拓君じゃなかったかしら」
「そうだっけか」
「そうよ」
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