第三章
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「それやったらな」
「いる筈ないか」
「そやからあの人な」
「碌なことにならんか」
「首吊るか」
いきなりだ、最悪の結果を言う徳兵衛だった。
「それか夜逃げか」
「夜逃げの方がましやな」
「まあどっちかやな」
「そうなるか」
「そうなるしかないわ、まあ真っ当な仕事せんとな」
それこそ、というのだ。
「人間あかんわ」
「ほんまやな、そのことは」
美代吉も徳兵衛のその言葉に頷いた。
「わて等も結婚しても」
「火には気をつけながらな」
「仕事するか」
「ああ、嫁に来たら毎日働いてもらうで」
「当たり前や、働いてどんどん儲けるで」
二人は難波の店で団子を食べながら話をした、そして美代吉が徳兵衛の家の店に嫁に入ってだ。そうして暫く経ってから。
美代吉が店で働いていると客が来た、その客はというと。
元木だった、その元木を見てだった。
美代吉は血相を変えてだ、この時は店の奥にいた徳兵衛にこう言った。
「ちょっと、あんた」
「どないしたんや?」
「元木さん来たで」
「ああ、久しぶりやな」
その浪人で今は賭場の用心棒の彼が来たと聞いてだ、徳兵衛はこの時は実にあっさりと言葉を返した。
「あの人最近来んかったな」
「そやないで、来たのはええけど」
「何や?刀はもう持ってないやろ」
維新になってだ、武士は士族となり士族も帯刀は許されていなかった。
「別に」
「それはないわ、けどな」
「ほんまどないしたんや」
「それは見ればわかるわ」
その目で、というのだ。
「そうすればな」
「何やねん、一体」
「とにかくちょっと来てや」
美代吉は徳兵衛いあらためて言った。
「物凄いやばいねん」
「ほんま何やねん」
ぼやいて言う徳兵衛だった。
「包丁持って暴れてるんかい」
「そんなことはないけどな」
「そやったら安心やろ」
刃物を持って暴れていない限りは、というのだ。
「別にな」
「ええから見るんや」
その元木をというのだ、こう話してだ。
徳兵衛はざんぎり頭に左手をやりながらだ、そのうえで。
小柄な美代吉に案内される様にして店の売り場に出た、そうしてその元木を見てだった。彼もそうなってしまった。
元木の目はどんよりとしており濁りきっていて虚ろですらあった。痩せこけた顔は土色で表情が消えている。髪は乱れきりばさばさになっている、着ている服もまるで雑巾の様になってしまっている。
これまではここまで荒れてはいなかった、それでだった。
その荒れ方を見てだ、徳兵衛も驚いたのだ。そして。
元木はその沈みきった声でだ、徳兵衛達に言って来た。
「油、あるか」
「どんな油でっか」
とりあえずそれを尋ねた徳兵衛だった。
「それで」
「燃えるのやったら何でも
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