第五章
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「俺達もどうなるかわからないさ」
「連中酷かったらしいしな」
紅衛兵も最早歴史の彼方だ、彼等がまだ産まれていない時代のことなので二人共こうした認識でしかないのだ。
「それこそ同性愛が駄目ってなったら」
「毛沢東みたいなのが言ったらな」
その時はというのだ。
「それこそ自己批判させられてな」
「リンチだな」
「それで殺されてるよ」
その紅衛兵達に、というのだ。
「嬲り殺しだったよ」
「文革だったらか」
「ああ、けれどな」
「もう文革の時代じゃないからな」
「毛沢東はいないさ」
今の中国には、というのだ。
「多分そうした時代にもならないしな」
「昔の中国と今の中国は違うからな」
「よくも悪くもな」
「俺達も人民服着てないしな」
「俺あの服着たことないぜ」
「俺もだよ」
二人共だった、もう人民服も中国で見ることは稀になっている。二人は上海の中流どっちかというと貧しい方の家の生まれだがそれでもだ。
人民服を着たことはない、それで李は王に言うのだった。
「紅衛兵もな」
「まずならないか」
「ああ、だからな」
「同性愛もか」
「まあこのままさ」
「共産党政権でもか」
「正直な、ここだけの話な」
李は少し周りを見回した、それでこれといって聞き耳を立てている人間がいないことを確かめてそうしてからだった。
小声になってだ、こう王に言った。
「もうな」
「共産党もだな」
王も小声で応える。
「やっぱり」
「ああ、だからな」
あえて多くは言わないでやり取りをした、この辺りは言葉の中に含んで外には出さない言葉でのことだった。
「そうなってもな」
「もうか」
「そんな時代じゃないさ、中国も」
それでだというのだ。
「俺達にしてもな」
「大丈夫か」
「そうなるさ、これからもな」
「そうか、じゃあ俺達はな」
「ずっとな」
今の政権でなくなってもというのだ。
「同志さ」
「そうなるんだな」
「じゃあ同志王」
李は普通の大きさの声に戻って笑ってだ、あえて共産党風に彼を呼んだ。
「これからも宜しくな」
「ああ、同志李」
王もだ、笑って李に応える。
「俺達はこれからも同志だ」
「ずっとな」
「親睦を深めていこうな」
「同志としてな」
笑い合ってこう話して酒を楽しむのだった、傍目には友人関係にしか見えないことをいいことにしてそのうえで彼等の愛情を育てるのだった。
同志 完
2014・6・23
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