第五章
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「それでもな」
「あのね、私はね」
「違うって言うんだな」
「そう、人にはわからないのよ」
「そうしたことはか」
「あんたにもあるでしょ、自分の身体で嫌なところ」
「まあそれはな」
あるとだ、夏樹も愛乃に返す。
「もう少し背が欲しいよ」
「そうよね、私もなのよ」
「目か」
「本当に整形しようかしら」
「勝手にしな。けれどな」
「けれど？」
「世の中垂れ目でもな」
愛乃が強い劣等感を抱いているそれのことを言うのだった。
「いいって奴も多いぜ」
「そうなの？」
「ああ、そうだよ」
「まさかと思うけれどそれがあんたとか言わないわよね」
「安心しろ、俺は御前の同期で友達だ」
そうした関係だというのだ。
「彼氏とかそういうのじゃないし片思いもしていないからな」
「一緒にベッドとかお風呂に入らないってことね」
「ああ、こうして焼肉を食う関係だ」
ビールを飲んでだ、それ以上のものではないというのだ。
「友達同士だ」
「まあ交際してて野球観て焼肉食べてビールとかね」
「彼氏彼女だと相当だろ」
「相当親密にならないとね」
「俺達は早速だったからな」
入社してすぐにそうする様になったというのだ。
「また違うだろ」
「そうよね」
「まあとにかくだよ」
あらためて言う彼だった。
「垂れ目でもいいだろ、御前の場合はな」
「私は？」
「小柄なのはいいんだったな」
「別にね、それはね」
構わないというのだ、実際に愛乃はこう考えている。
「いいわ」
「そうだよな、じゃあな」
「垂れ目もなの」
「どうせ会社で御前の目のことは皆知ってるんだよ」
垂れ目のことをだ。
「だったらもうアイメイクを濃くしないでな」
「この目をそのまま出せっていうのね」
「垂れ目をな。それで何か笑われたら止めてな」
「整形もなの」
「してな」
そして、というのだ。
「変えればいいだろ」
「けれど誰も何も言わなかったら」
「別にいいだろ、少なくとも俺はな」
「あんたは？」
「御前の目のことは気にならないからな」
こう言うのだった。
「してみろよ、少なくとも笑うことはしないさ」
「本当に笑わないのね」
「御前が全身に蜂まとってどっかの国の旗にダイビングしたら笑うさ」
「それはもう変態さんだから」
完全にそうだというのだ。
「それに刺されるし」
「そこで刺されたら余計に笑うからな」
「そんなことしないから」
絶対に、というのだ。
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