優雅ならぬ戦端に
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違いがあるとすれば非情になれるかどうかだけ。優しさを切り捨てて、先の世を作ろうと動いたかどうかだけであった。
何も言えない麗羽に、華琳は目を細めて笑みを消す。
また一つ、小さな吐息を漏らした。これなら仮面を被っていた、バカに見える麗羽の方が戦い甲斐があったのではないか、と言いたくなる。
――自分の欲を優先する偽りのあなたの方が勝ちに近付けたとは……皮肉なモノね。
もう言うべき事は何も無い。彼女の拠り所は壊された。作られた自信も、手に入れた勇気も、せめて勝利の為にと被った王の仮面も……麗羽は全て失った。
冷たく、アイスブルーの瞳が輝く。嘶く風が華琳の背から轟と吹いた。乗せられる覇気は甚大。王としての優劣は、この時既に付いていた。
華琳は鎌を一振り。彼女の頸を刈り取らんばかりに、大きく振り抜いた。
「もはや言葉は不要。袁本初……袁家当主ともあろうものが卑怯とは言うまい。我が軍の総力と全ての策を以って……これより袁紹軍を蹂躙させて貰う。
逃げるな、引くな、臆するな。せめて乱世に駆けた勇猛な王としての姿を見せ、勇ましく抗って見せよ」
敵を鼓舞する言は異常に過ぎる。されども華琳らしいと言えばらしい言い方であった。
――生に縋り付こうと逃げるか、それとも誇り持ちて抗うか……どちらにしろ……
「あなたに残された全てを、奪わせて貰いましょうか」
にやりと引き裂いた口で、最後に華琳として言葉を残す。
突撃の合図は無かった。馬を翻して颯爽と去って行く華琳の背を見もせずに、麗羽は手綱をぎゅうと握りしめる。
何も言い返せない。偽りの自分を演じる事もしたくなかった。
――夕さん……わたくしは……あなたに何も返せませんの……?
黒の少女はもう居ない。彼女がくれた勇気は、もう欠片も残っていない。
他者を憎む事が出来ず、自分を信じる事も出来ず、彼女の心の足場は崩れ去った。
例え両腕たる二人が励まそうと叱咤しようと……袁の自分を憎んだ彼女は、戦場に相応しい王ではなく、ただ一人の弱い人間でしかなかった。
魂が抜けたように力無い麗羽の代わりに猪々子と斗詩が兵を鼓舞し、陣形を配置して一刻、銅鑼の音が鳴る。笛の音が鳴る。雄叫びが遠くで幾重も聴こえた。
総力を以っての言葉通りに、官渡の戦いに赴いた全ての部隊が……袁家を殺さんと四方十面から現れる。まるで乱世に於いて周り全てが敵である事を表すかのように。
決戦を決めた時点で彼女達に逃げ場など残されていなかった。
そして先頭を切るのは……袁家を誰よりも怨んでいる、此処からは遠き大地、幽州の兵士達であった。
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