優雅ならぬ戦端に
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った。
しかし……王佐の喪失と臣下の裏切りは、彼女にとって大きすぎる衝撃で……自分の家にはもう、誇りなど感じない。
後悔と自責に泣き腫らした夜を越えて、せめて彼女の望んだ勝利をと願い、恭順を是としない。それが麗羽なりの、夕への手向け。
聡く見抜いた華琳は小さな苦笑を漏らした。
「ふふ、そうね。私の臣下達は良く戦ってくれた」
「自分は何もしていない、と言いたげですわね。……珍しいこと。あなたが自分から誰かに任せるなんて……そんなに黒麒麟がお気に召しているとは思いませんでしたわ」
「アレが居ようが居まいがあなたは負けたわよ。己が王佐に、大切なモノを切り捨てさせられなかったのだから、ね」
瞬間、麗羽の見せていた不敵な笑みが抜け落ちる。
華琳は獰猛な光を目に宿してより一層笑みを深めた。
「休ませようとしたんでしょう? 心を気遣ってやったんでしょう? 救いたいと願ったんでしょう?」
「な、何を……」
「勝利の為にと部下が献策した策を信じるのは確かに正しい。けれど……部下の心を思いやる余り私情を優先させるのは間違い。あなたはそれが分からなかった、と言いたいのよ」
華琳が麗羽の立場であったなら、夕にこの戦の行く末を見届けろと言うだろう。油断も慢心もせず、勝利の為に今は耐えよ、共に戦え、と。
「あなたは最後の最後で自分の欲に縋りつかなかった。田豊は“袁本初”では無く“麗羽”の忠臣であろうとした。その差異は小さく思えるけれど……大きいのではなくて?」
「……っ」
麗羽は悲哀に震えた。正しく、心の奥底まで。
夕の命を追い詰めたのは間違いなく自分が助けたいと願ったからだ。優しい心を持たなければ、言いなりの傀儡のままであったなら、夕は死ななかった……かもしれない。
もしもの話だ。しかして麗羽は始めて自分から動いた事が重なって、後悔を覚えずにいられない。たった数日で割り切れるほど、強くも無かった。
心の弱みを見せたなら、華琳は容赦なく抉り抜く。
「その選択はきっと、人として正しいのでしょう。他者を思いやる心は美しい。己が身を犠牲にしてでも誰かの幸せを願う姿は儚くも綺麗で惹きつけられる。手助けをしたいと願う事は普通の事で、誰もが優しいと褒めるでしょう。
けれど、覇の道を進む王としては足りえない。どれほど部下に憎まれようとも、その者の身命のみならず、大切なモノを自分の勝利の為に捧げさせられなければ……私には届かないのよ、麗羽」
桂花と夕、二人の王佐をどう扱うかでこの戦は決まった。
麗羽は夕の心を優先し、戦を自分に任せてくれと思い遣った。
華琳は桂花の願いを選別し、戦を自分と共に終わらせようと気遣った。
二人の王佐はどちらも主の為を考えて策を出し、主は各々を信じ抜いた。
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