優雅ならぬ戦端に
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一言が、彼女達三人の胸にキズを一筋付けた。
麗羽は自身の臆病さを呪い。
斗詩は自分の非力さを呪い。
猪々子は……不知で過ごしてきた過去を戒める。
しかして、薄緑色の髪を揺らす彼女だけは、いつも通り前向きに未来を見据えていた。
――なぁ、明……やっとお前の気持ちが分かったよ。あたいはあんまり頭良くないからさ……剣と剣を合わせて、ちょっくら話しようぜ。
ただ大切な人を守る為に。そうして彼女の心は……黒の部隊と同じように真っ直ぐ狂い始めた。
†
吹き荒ぶ風は轟々と音を立て、棚引く牙門旗は堂々と揺れ動く。
官渡と陽武の中間、広く開けたこの場所で相対するは蒼紺と金色。
片や、糧食の壊滅と分けた部隊の敗北によって士気が低く、されどもまだ数としては勝っている袁紹軍。
片や、白馬での勝利、延津での引き分け、官渡での三度防衛、辛い所はあったモノの、烏巣への強襲成功と立て続けに良い結果を治めて士気高く、未だ数で負けていようと勢いに乗る曹操軍。
ただし、曹操軍は見るからに数が少ない。全軍を結集した数とは、誰も思えない程に。
絶影と名付けられた名馬に跨り、二つの螺旋が揺れ動く。冷たい風が心地よかった。
気分がいい。背中を推す配下の気概の高さも、乱世の悲哀と歓喜を綯い交ぜにしたこの空気と自分の心も。全てが華琳の胸を高鳴らせていた。
王佐の哀しみは彼女の力となった。勝利を得ずして、どうしてその想いに応えられよう、と。
――私の前に立つ者は相対するに相応しいか、否か。願わくば抗う強さ持て。虚飾と傲慢の崩れた……孤独にして臆病な王、袁本初。
たった一頭で進む先には……豪著に金髪を幾重にも巻いた敵で、嘗て机を並べた友。
策はあれど直ぐに戦は始めない。最終局面を飾るのは語らいからにしよう、と華琳は決めていた。
「久しぶり、とでも挨拶しておこうかしら、麗羽」
凛、と耳に良く通る声が渡される。さも日常会話の如く。
近付けばよく見える表情に、華琳は僅かに目を細めた。
化粧で隠しても分かる赤く腫らした瞼が、麗羽の哀しみを物語っている。それでも、麗羽は不敵に笑っていた。軍を率いる袁家の当主たらんと示す為に。
――その姿に称賛を。腑抜けていたなら直ぐに引き返そうと思ったけれど……少しだけ話をしましょうか。
内心で褒めて、じっと見やる。ふ……と漏れた吐息はどちらも同時。
「お久しぶりですわ、華琳さん。よく此処までよく戦った、と褒めて差し上げましょう」
物言いは上から目線で、格下のモノを扱うように。ずっと麗羽はそうして、王の仮面をかぶり続けてきた。
虚飾と傲慢に彩られる袁家の主。自分は本当は弱くて臆病な女だとは、誰にも見せて来なか
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