優雅ならぬ戦端に
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、どれだけ仲良くとも、殺し合いを始めてしまったら……敵として立ちふさがるなら殺さなければならない。
只々明の心を思う男は、麗羽や斗詩の事など関係なく、戦の利害よりも彼女の事を考えて言葉を綴った。
「……無理だ。あいつが姫と斗詩を殺そうとするなら、あたいはあいつとだって戦うし、止まんないってんなら……殺す。この命を賭けても」
不思議だった。
哀しさはあっても、自分が守りたいモノの敵になったのなら、明と戦うのも仕方ないと割り切れた。自分の命を賭けてでも、投げ捨ててでもこの二人を守りたい、と。
昔ならこうではなかったとだろうな……と猪々子は笑いそうになる。彼女の心は徐州のあの時、黒麒麟の身体最精鋭と戦った時から変化している。
この追い詰められたこの状況で、自分の命を度外視出来るようになったのだ。他の誰を切り捨ててでも彼女達の幸せを優先するようになった。
頭が冴え渡る。明とは違って自分の大切なモノはまだ生きているという事が、彼女を絶望の底から掬い上げた。
「……っ……あの人はなぁ! もう助からないからって田豊様に望まれてっ……自分の手で殺したんだぞ!? それでも戦うってか!?」
驚愕に目を見開いたのは三人共。
なんという事を……麗羽の口から無意識に零れた言葉は、男に睨みつけられて止まる。
しかし、猪々子は眉を顰めてから、答えを返していった。
「そうかよ。でも……あたいは戦う」
「なんで、だよ……」
「明にとって夕が大事だったように、あたいにとっても姫と斗詩が大事だからだ。殺させたくないんだ。確かに明だって友達だと思ってる。けど……それ以上に……この二人はあたいの大切な人なんだよ。
だから、お前の願いは聞けない……ごめんな」
嗚呼、と二人から嘆息が漏れでた。
一番仲良くなりたくて、ずっと明に関わってきた彼女が自分達の為に殺すと言う。その背中は、必ず守ると無言で伝えていた。
哀しくてしかたないのに、歓喜が浮かぶ。二律背反の感情の板挟みが、優しい二人を昏く苛んで行く。
茫然と、男は猪々子を見つめるだけしか出来ない。
何も言っても変わらない。自分達の掲げる将と同じなのだ。どんな事をしてでも二人を生かそうとする彼女は、男の言葉程度ではもう揺らがないと分かってしまった。
彼女が自分達と同じだと理解し、乾いた笑いを漏らして、男は涙を頬から伝わせた。
「……あの二人をもっと早くから、あんたの守る範囲に、入れてくれりゃあ、よっかったのによ……そうすりゃあの人は、きっと裏切らなかったぜ」
「……かもな」
「はは……」
打ちひしがれるまま、男は猪々子を憎めずに、頭を垂れて崩れ落ちる。
「なんで……こんななっちまったんだろうなぁ……」
天幕の中に呟かれたその
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