優雅ならぬ戦端に
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けでも救われていいはずだ。自分達の将は、紅揚羽は虫篭に入れられるべきでは無い。
自分の為に、気まぐれに自由に空を飛んでくれたらいい……張コウ隊の望みは彼女を縛り付ける鎖が無くなることであった。
――本当のこと……なんですの……?
睨まれて、麗羽は漸く事実を受け止め始める。
猪々子と斗詩の言を跳ね除け、自軍の勝利を信じてきた。烏巣壊滅の報せは聞いたがそれすら敵の策だと信じなかった。明の裏切りなど信じていなかった。しかしこの兵士の物言いは真に迫り、表す感情は嘗ての仲間に向けられている……否、自分達を倒すべき敵として見ている。
だらりと、両腕を力無く下げた。いつものように片手の甲を頬に当てる事も、不敵に笑う事も出来ず、優美な姿は作れない。
――そんな……わたくしが……
夕が死んだ原因は何か。思考を巡らせていけば、思い至る。
――わたくしが動いたから……夕さんは殺されてしまった……
慄く唇から出る吐息は熱く、胸にこみ上げる感情は瞬く間に脳髄を埋め尽くす。
彼女は最後の軍議で涙を零した。聡い彼女が袁家のやり口に気付いていないはずが無い。なら……彼女は麗羽の為に、漸く踏み出せた一歩が絶望の始まりだと感じさせない為に何も言わなかったのだ。
麗羽が麗羽として胸を張れるように、決して否定を混ぜずに。明が自分の事を無理やり連れ出して麗羽達であろうと切り捨てると分かっていたから、助けを求めることすらせずに。
――これが、袁家。こんな家……存続させる事に……なんの意味がありますの……?
足掻いても足掻いても救われない。人形のようにいう事を聞いていればいいだけの、利用されるだけの関係性を常に強いられる。
麗羽は自分の血を呪った。そして、自分の無力さを呪った。
そこまで頭は悪くない。だから、この家が腐れてしまった漢と同じだと知っている。こんな事を繰り返すくらいなら……いっそ自分が壊してしまえばいい。そう思う。
胸にぽっかりと穴が開いていた。自責の刃が、麗羽を責め立てる。泣いてしまいたいのに泣けなかった。ぐちゃぐちゃに乱れた思考が、心の中をかき乱していく。
何も言えない麗羽を別に、猪々子は泣き崩れた男に話し掛けた。
「うん……分かった。あいつは、もうあたい達とは戦ってくれないんだな」
「文醜様よぉ……あんたが一番、あの人と仲良かった、だろ? もう、戦わないで、くれねぇか……?」
無理矢理一緒に居て、傍に行って、そうして明と仲良くなろうとしてきたその姿を、男は何度も見ていた。
ぐ、と唇を噛んで、猪々子は耳を傾ける。
「きっと、心の底では、あんたとは戦いたくねぇと、思うんだ。だから……頼むよ……これ以上、あの人を悲しませねぇでくれ」
戦をしている。例え友であろうと
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