第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十九日:『息吹くもの』
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ずんずんと坂を下る黒子の後に追い縋るように、揉み手しながら嚆矢は言い訳に勤しんでいた。まるで、浮気がバレた軟派男のように。
尚、彼女としてもそこまで怒っている訳ではない。まぁ、ある意味でのじゃれ合い……なのかも知れない。
その姿を見ながら、先ほどまで彼を尊敬の眼差しで見ていた後輩達は同じ事を思う。『これさえなきゃ、好い人なのに』と。
「いや、ほんとほんと! 反省しました、だからみーちゃんには……ああもう、こんな時に」
と、丁度坂を降りた辺りで彼の携帯が鳴る。誰かと思い、出れば。
『あ、こんにちはコウくん。ママですよ〜。久しぶりに掛けちゃっ』
「ちょっと今忙しいから後でね、義母さん!」
『あっ、待ちなさいコウくん! 色々あるけど、取り敢えずは必ずお友達を信じるのよ、絶対よ!』
プツッ、と携帯を切る。言われた事は、別に普通の事。しかし、あの義母が言うからには何か重要な事なのだろう。
だが今は、それよりも大事な事がある。もう二十メートルは先を歩いている、黒子を追い掛ける。
「ちょ、待ってくれって────」
そこで感じた、学園都市では先ず嗅ぐ事の無い焼けた薫り。芳しい紫煙の香気に、思わず振り返る。反対車線を歩く後ろ姿、黒いローブに身を包む大兵の────思い詰めた表情で煙草を吹かす、赤髪の魔術師。見間違いようもない、あれは。
「────」
駆け出し──そうになった体を、押し留める。気にしてどうする、此方を襲ってきた訳ではない。
別に、奴は……ステイル=マグヌスは、日常に手を出した訳ではないのだから。
「……先輩、どうしましたの?」
「ッ、あ、ああ。何でも……」
冷や汗すら流した嚆矢の様子を、流石に不審に思ったのか。黒子の方から彼に話し掛ける。それに正気に戻り、一瞬だけ表層に浮かんだ……“魔術師としての顔”を吹き消す。
いつも通り、ヘラヘラと。軟派な顔を、仮面を被って。もう一度見遣った反対車線。そこにはもう、人影すらなく。それに、安堵を覚えて。
「じゃ、風紀委員の仕事と行こうか」
沸き上がる不安を掻き消すように、頚から下げた『兎の脚』を握り締めて。
『いつもの一日』を送るべく、黒子の肩を軽い調子で抱いて。護身術で投げられて────
………………
…………
……
活動を終えた夕方、現在時刻十八時ジャスト。嫌がる黒子を寮まで送ろうとして、空間移動で撒かれて。学ラン姿の嚆矢は、一人公園を歩く。有り体に言えば、暇だった。
「……お、自販機」
見掛けた自販機に、喉の乾きを覚える。幸い、麦野から
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