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リリカルってなんですか?
A's編
第三十二話 裏 中 (フェイト)
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てくれている兄の手をそっと取った。

 触れた掌から感じられる彼の手から感じられる体温が温かい。それが人と触れ合うということ、自分の居場所なのだとフェイトはようやく自覚できた。

「――――ありがとう。あなたがいたから私は、自分を始めようと思うことができた」

「あはは、気にしないで。自分のことだもん。私が私に力を貸すことは当然だよ」

 その言葉にフェイトは首を横振った。分かっているからだ。すでに彼女は確証を得ていた。彼女は自分の虚像として生んだアリシアではないのだと。

「違う。そうでしょう?」

 もはや彼女は観念していたのだろうか。フェイトの言葉を否定することはなかった。ただ、照れくさいのを誤魔化すように照れ笑いを浮かべていた。

「あはは、わかっちゃった? うまく隠せたと思ったんだけどな」

「わかるよ。こんな形で出会うとは思わなかったけど」

「私もだよ。いや、こんな形じゃないと私たちは出会えなかっただろうね」

 そう思っていなかった。こんな形で出会うことができるなんて。本当は姉と呼ぶべき存在と出会えるなんて。だが、アリシアが言うことも事実なのだ。アリシアが生きていれば、フェイトは生まれることはなかった。両者が並び立つことなど、こんなことがなければありえない現実なのだ。

 ただ、少しだけの偶然が重なっただけ。それがどれだけ低い確率だったとしても今が、今だけが現実だ

「だからこそ、この出会いに感謝しようよ。そして、私のことを想ってくれるなら………行って! フェイト!」

 そう感謝するべきなのだろう。もしも、神という存在がいたとするならば、この出会いに。元来出会うことがなかった姉という存在に引き合わせてくれた存在に。彼女の居場所である兄という存在を与えてくれた存在に。

 彼女ともう出会うことはない。だからこそ、フェイトは彼女を安心させるためにしっかりと微笑みを浮かべた。もう大丈夫なのだと。もう一人じゃないことに気付いた。自分が存在してもいい場所があることに気付いた。もう、この暗闇すら必要なのだと。

「はい、行ってきます」

 そう言いながら、もう必要ないこの空間から脱出するために久しぶりの相棒に声をかける。

「バルディッシュ、行ける?」

 返ってきたのは、何を言っているんだ、と憤るような、あるいは久しぶりの起動で歓喜するデバイスの弾んだ返事だった。

 ―――Yes、Sir!

 瞬間、彼女の身体はバリアジャケットに包まれる。マントを翻し、水着のような黒い服に包まれる。久しぶりの感覚だが、違和感はない。むしろ、充実している。なぜなら、彼女はすでに手に入れているからだ。

 自分が自分でいい場所を。自分がそこにいてもいいと許される場所を。彼の隣に。


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